そろそろ夏も近づく季節になってまいりました。今年も大量のシリコダマを取るぞ、と水に沈んで水底で張り切っているカッパである。
週末になりました。夏が近づいて天気もいいし、ぼんやり空でも眺めていようかなあ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
むかしむかし、孔子が楚に行こうとして、蟻丘という地の「漿」(しょう)に宿泊した。
「漿」というのは、飲料水や酒などを売る店で、旅宿も兼ねていたものであろうと解されています。
其隣有夫妻臣妾登極者。
その隣に、夫妻臣妾の極に登れるもの有り。
その宿の隣に、主人も主婦も、下男も下女も、みんな屋根の棟に昇って(遠くを見ている)家があった。
「なんですかね」
子路曰、是稯稯何為者邪。
子路曰く、この稯稯(そうそう)たるは何を為す者なるや、と。
「稯」は髪を振り乱しているさまをいう。
孔子の高弟である子路が訊いた。
「先生、あの髪を振り乱して屋根に昇っているやつらは、何をしているんですかね」
孔子は答えておっしゃった、
是聖人僕也。是自埋於民、自蔵於畔。其声銷、其志無窮。
これ、聖人の僕なり。これ自ら民に埋もれ、自ら畔に蔵す。その声銷(き)え、その志は窮まり無し。
「あれは、おそらく聖人のグループに属するひとたちだな。自ら人民の中に埋もれ、自ら田園に隠れているのだ。その名声は消えているが、その志を妨げるものは無い」
「へー」
其口雖言、其心未嘗言。方且与世違、而心不肖与之倶、是陸沈者也。
その口は言うといえども、その心はいまだ嘗て言わず。方且(まさ)に世と違(さ)りて心これとともにするを肖(いさぎ)よしとせず、これ「陸沈」(りくちん)なる者なり。
「彼らは一応会話はするが、その本当の心は誰にも明かさない。今こそ世俗から離れようとして、心の中ではそれ(世俗)と一緒くたにされるのを拒否しているのだ。こういうのを「陸沈」(りくちん)する人、と言うのである」
「陸沈」は(水中ではなく)地面の上で沈む、ということで、世間に隠れて目立つことのない隠者として生きることです。
「おそらく、あれは市南宜寮(しなん・ぎりょう)とその家族じゃよ」
「へー、そうなんですか。それは立派な人ですね」
子路は
「彼を誘って来て、語り合いましょう」
と行こうとしたが、孔子はそれを呼び止めた。
已矣。彼知丘之著於己也。知丘之適楚也。以丘為必使楚王之召己也。
已まんかな。彼、丘(きゅう)の己を著(あらわ)さんとするを知れり。丘の楚に適(ゆ)かんとするを知れり。丘を以て必ず楚王をして己を召さしめんと為さん。
「丘」(きゅう)は孔子の名。自分のことを言っています。
「やめておきなさい。彼は、わしが(賢者を発掘して世に出そうとして)彼を世に知らせようとするのを察知している。わしが楚に行こうとしているのも知っている。わしのことを、やつは楚王に勧めて、自分を賢者として招かせようとするだろう、と思っているだろう。
はあ・・・」
孔子はためいきをついて、言った。
彼且以丘為佞人。夫若然者其於佞人也、羞聞其言。而況親見其身乎。而何以爲存。
彼まさに丘を以て佞人(ねいじん)と為さん。それ、然るがごとき者のその佞人におけるや、その言を聞くを羞ず。しかるにいわんや親しくその身を見んことをや。而して何を以て存を為さん。
「彼は、わしのことを口の上手なやつだ、と思っていることじゃろう。そういう人が口の上手なやつに対するときには、そいつがこんなことを言った、というコトバの内容を聞くだけでもイヤがるのだ。それなのに、親しく自分でそんなやつと会おうとするものか。だいたい、まだ居るかどうかさえ怪しいのだ・・・」
「そうですかねえ・・・」
子路は自分だけでも話してみたいと思って行ってみたのだが、その家に着いたときには、
其室虚矣。
その室、虚なり。
もうその家には誰もいなかった。
「陸沈」の典據として有名な一節である。
・・・・・・・・・・・・・・
「荘子」雑篇「則陽篇」より。ふだんはぼんやりと空を見ていて、ちゃんとした人たちに話しかけられそうになると、逃げてしまうんです。彼らはほんとにわたしに似ているなあ。家族がいるところが違いますが。