「さあ、カメに乗って、平日の来ない世界に旅立つでコケ―!」「ピヨ―!」と補陀落に渡海していくニワトリたち。よし、我々も勇気を出そう。ここに「明日から出勤しない」ことを宣言します!
三連休の最終日の夜。「もうシゴトには行かない」と心に決めたからいいものの、そうでなければ恐怖と不安で錯乱状態になっていてもおかしくない状況といえよう。しかし正気でいるので、腹が減ってきた。
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昔者、良将之用兵、有饋箪醪者。
むかし、良将の兵を用うるや、箪醪(たんろう)を饋(おく)る者有り。
古代のことでございますが、すぐれた将軍が軍を率いて活動しておられたとき、将軍にお酒を竹筒に入れて贈ってくれたひとがおりました。
「醪」(ろう)は「濁り酒」「どぶろく」。決して上等なお酒ではありません。
将軍はこれを受け取ると、
「ぜひ兵士たちとともに飲みたいものじゃ」
と喜び、侍衛の士に命じて、
使投諸河、与士卒同流而飲。
諸(これ)を河に投ぜしめ、士卒と流れを同じうして飲めり。
竹筒から酒を川に流しこませ、軍の士官や兵卒たちとともに、この川の水を汲んで、その酒を味わった。
兵士たちは感激し、将軍のために死戦しようと誓ったものである。
夫一箪之醪、不能味一河之水、而三軍之士思爲致死者、以滋味之及己也。
夫(それ)、一箪の醪、一河の水を味つくること能わず、而して三軍の士ために死を致さんと思うものは、滋味の己れに及ぶを以てなり。
ああ。竹筒一本分のお酒が川の水に味をつけることができるはずはない。しかるに、三軍(前衛・本隊・後衛)の士卒たちが「このひとのために死のう」と思うに至ったには、そのうまさが自分まで分けてもらえたからである。
自分たちが「道具」とか「その他大勢」としてではなく、一人のニンゲンとして認められている、と認識したからなのだ。
このように、将軍は兵卒と何事をも分け合わねばなりません。
軍讖曰。
軍讖(ぐんしん)にかく曰えり。
「いくさみくじ」にはこのようなコトバがあります。
「軍讖」は、この「三略」という書物に特徴的に出て来る「引用書」で、古代、軍事についての吉凶などを占った「戦争予言書」をイメージさせていますが、実際には軍事についての「格言集」として扱っています。
軍井未達、将不言渇、軍幕未弁、将不言倦、軍竈未炊、将不言飢。
軍井いまだ達せざれば、将は渇けりと言わず、軍幕いまだ弁ぜざれば、将は倦みたりと言わず、軍竈いまだ炊がざれば、将は飢えたりと言わざれ。
(軍の宿営に当たって)軍事用の井戸を掘ってまだ地下水に達しないうちは、将軍は「のどが渇いたのう」と言ってはいけない。軍隊テントがまだ張れていないうちは、将軍は「疲れたのう」と言ってはいけない。軍隊メシが炊けないちは、将軍は「腹が減ったのう」と言ってはいけない。
腹が減っても「腹減った」とは言ってはいけないのである。
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「三略」上略より。「三略」は漢の張良に軍略を教えた黄石公の著書、という触れ込みですが、もちろんウソです。太公望呂尚の著書という「六韜」とともに、唐のころには存在していて、平安時代、宇多天皇の御世に我が国にも伝わった。なお、上に引いた「軍讖」の「軍井未達・・・」は、乃木大将が扇面に書いて陸軍の士官候補生に与えたというので有名である。