争いあう世の中を棄てて、旅立つぶたやくざであった。
今日は何度か緩やかに倒れたが、なんとか家に帰ってこれました。
・・・・・・・・・・・・・・・
東晋のころ、有名な高僧・支遁(字・道林)が都を辞して会稽に帰ることになり、時の名士たちが集まって送別の宴を開いた。
蔡系(字・子叔)は早めに来たので、主客の支遁の近くに座を占めたが、謝万(字・万石)は遅れてきたので離れたところにしか席が無かった。
宴が進み、
蔡暫起。謝移就其処。
蔡暫く起つ。謝、移りてその処に就く。
蔡系が小用のために席を立った。すると、そのすきに謝万は蔡の席に移って座ってしまった。
蔡系は還ってきて、
見謝在焉、因合褥挙謝、擲地。
謝の在るを見て、因りて褥を合わせて謝を挙げ、地に擲つ。
謝万がもとの自分の席に座っているのを見ると、黙って敷物ごと謝万を持ち上げて床に転がしてしまった。
ごろん。
一瞬宴席は静まり、ひとびとの視線は二人に注がれた。
蔡系は、知らん顔をしながら、
自復坐。
自らまた坐す。
その席に自分がまた座った。
一方、
謝、冠幘傾脱。
謝、冠幘(かんさく)傾脱す。
謝万はかんむりも頭巾もずり落ちてしまっていた。
しかし、謝万は、
乃徐起振衣就席、神意甚平、不覚嗔沮。
すなわち徐ろに起ちて衣を振るいて席に就き、神意甚だ平にして、嗔沮(しん・そ)を覚えず。
やがてゆっくりと立ち上がると、着物の塵を掃って、もとの席に戻った。心はたいへん平静なままで、怒ってもいないし、しょげこんでもいない風であった。
そして、
座定、謂蔡曰、卿奇人、殆壊我面。
座定まりて、蔡に謂いて曰く、卿奇人なり、ほとんど我が面を壊さんとす、と。
もとの席に座り直したところで、蔡系に向かって言った。
「おまえさんは変わったひとだなあ。わしのこの立派な顔がつぶれてしまうかと思ったぞ」
蔡は答えて言った、
我本不爲卿面作計。
我もと卿の面のために計を生さず。
「わたしはもとからおまえさんの顔のことなど考えておらんからな」
それから、また普通に宴会が続きました。
ところで、この二人の大したところは、
其後二人倶不介意。
その後、二人ともに意に介せず。
その後、二人とも、おたがいに何とも思わなかった。
お互い恨みを残したのでないのはもちろん、仲良くなったわけでもなかったことである、と、そのころ人びとは評したものであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「世説新語」雅量第六より。雅量があるように見えても、二人とも宴会に行く分まだまだです。わしのように会社や社会から孤立しても意に介さなくなってこそ、雅士というべきであろう。