平成30年8月31日(金)  目次へ  前回に戻る

争いあう世の中を棄てて、旅立つぶたやくざであった。

今日は何度か緩やかに倒れたが、なんとか家に帰ってこれました。

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東晋のころ、有名な高僧・支遁(字・道林)が都を辞して会稽に帰ることになり、時の名士たちが集まって送別の宴を開いた。

蔡系(字・子叔)は早めに来たので、主客の支遁の近くに座を占めたが、謝万(字・万石)は遅れてきたので離れたところにしか席が無かった。

宴が進み、

蔡暫起。謝移就其処。

蔡暫く起つ。謝、移りてその処に就く。

蔡系が小用のために席を立った。すると、そのすきに謝万は蔡の席に移って座ってしまった。

蔡系は還ってきて、

見謝在焉、因合褥挙謝、擲地。

謝の在るを見て、因りて褥を合わせて謝を挙げ、地に擲つ。

謝万がもとの自分の席に座っているのを見ると、黙って敷物ごと謝万を持ち上げて床に転がしてしまった。

ごろん。

一瞬宴席は静まり、ひとびとの視線は二人に注がれた。

蔡系は、知らん顔をしながら、

自復坐。

自らまた坐す。

その席に自分がまた座った。

一方、

謝、冠幘傾脱。

謝、冠幘(かんさく)傾脱す。

謝万はかんむりも頭巾もずり落ちてしまっていた。

しかし、謝万は、

乃徐起振衣就席、神意甚平、不覚嗔沮。

すなわち徐ろに起ちて衣を振るいて席に就き、神意甚だ平にして、嗔沮(しん・そ)を覚えず。

やがてゆっくりと立ち上がると、着物の塵を掃って、もとの席に戻った。心はたいへん平静なままで、怒ってもいないし、しょげこんでもいない風であった。

そして、

座定、謂蔡曰、卿奇人、殆壊我面。

座定まりて、蔡に謂いて曰く、卿奇人なり、ほとんど我が面を壊さんとす、と。

もとの席に座り直したところで、蔡系に向かって言った。

「おまえさんは変わったひとだなあ。わしのこの立派な顔がつぶれてしまうかと思ったぞ」

蔡は答えて言った、

我本不爲卿面作計。

我もと卿の面のために計を生さず。

「わたしはもとからおまえさんの顔のことなど考えておらんからな」

それから、また普通に宴会が続きました。

ところで、この二人の大したところは、

其後二人倶不介意。

その後、二人ともに意に介せず。

その後、二人とも、おたがいに何とも思わなかった。

お互い恨みを残したのでないのはもちろん、仲良くなったわけでもなかったことである、と、そのころ人びとは評したものであった。

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「世説新語」雅量第六より。雅量があるように見えても、二人とも宴会に行く分まだまだです。わしのように会社や社会から孤立しても意に介さなくなってこそ、雅士というべきであろう。

 

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