平成30年8月19日(日)  目次へ  前回に戻る

モグから地下小作料を取り立てる傲慢なる巨大ニワトリ。それにしても巨大ニワトリなんて肝冷斎族の伝承にだけ現れる想像上のイキモノだと思っていたのですが、(下記のとおり)実在していたとは・・・。

ほとんどの肝冷斎一族が行方をくらましてしまいました。暑いという自然的要因のほか、みんなが冷たいという社会的要因が大きかったと思われる。

肝冷斎一族でさえ行方をくらましてしまうのだから、不思議な力を持ったドウブツたちが行方をくらましてしまうのは、当たり前のことなのであろう。

・・・・・・・・・・・・・・・

清の時代、江蘇の常州では、

人死殮時、以瓦罐覆地。葬時起棺、請巫誦呪破罐、則曰煞神退矣。

人死にて殮時には、瓦罐を以て地を覆う。葬時に棺を起こすに、巫を請いて誦呪して罐を破り、すなわち「煞神退けり」と曰えり。

人が亡くなったときには、(家の庭の一か所に)陶製のバケツのような形のものを伏せて、地面を覆っておく。やがて葬式の日になり、死体を入れた棺を(墓地に向けて)動かすとき、女巫を呼んで来て呪文を唱えてもらいながらこのバケツを壊すのだが、これを「死神を追い返す」と言う。

という習俗があったそうなんです。

或曰其形如雞。

或いは曰く、その形は雞の如し、と。

「死神はニワトリのような姿をしているのだ」というひともいた。

高雲瀾という高官はわたし(←肝冷斎にあらず、この文章の著者・湯用中)の母方の親戚で、常州に暮らしていたのだが、

新喪、罐爲群児撃破。

新たに喪するに、罐、群児の撃破するところと為る。

親族の一人が亡くなったとき、習俗どおりに陶製バケツを地面に伏せたのだが、これをなんと、近所のガキどもがいつの間にかぶっ壊してしまいやがっていたのだ。

葬式の前に呼ばれてきた老巫女が、その様子を見て、

煞神乃逸。

煞神すなわち逸せり。

「死神さまは、もう出てしまわれておる!」

と呪文を唱えずに早々に引き取って行ってしまったのであった。

さて、葬式の終わった後しばらくしてのことでございますが、この高家には、

後楼五楹、久封扃。

後楼五楹、久しく扃(けい)を封じたり。

裏庭に五本柱のある建物があったが、ずっとカンヌキを掛けたままになっていた。

この建物で、

忽時聞拍拍声。

忽時に、拍拍たる声を聞けり。

あるとき、突然、ばたばたと羽ばたくような音がした。

「何かいるようだ」

と家人らが騒ぎ立て、

啓視、一雞冠距甚偉。

啓き視るに、一雞の冠・距はなはだ偉なるあり。

扉を開いてみたところ、中にはなんと―――トサカも足もやたらにでかいニワトリが一羽いたのだ!

コケコケ―!

不知従何処来。

知らず、何れの処より来たれるかを。

いったいどこからやってきたものなのか、皆目見当がつかなかった。

「もしかしたら、この間逃げ出していた死神さまでは」

「まさか」

とにかく家人ら総出で、

コケコケー!

ばさばさ動き回るのを、なんとか

罩以巨籠、倐失所在。

巨籠を以て罩(こ)むるに、倐として所在を失えり。

巨大なとりかごを持ってきて、それに閉じ込めたのだが、すぐにその姿は消えてしまい、どこに行ったのか皆目わからなくなってしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・

「翼駉稗編」巻五より。巨大なニワトリがいるんです。しかしこいつが「煞神」などというおどろおどろしいものだったのかどうかは確認できません。単に

「コケ、この建物空いてるでコケ、いただきコケー!」

と勝手に住み着いていただけかも。一方、肝冷斎族も、上からどんぶりなどをかぶせておくと逃げられないかも知れません。

 

次へ