平成30年6月16日(土)  目次へ  前回に戻る

水の中こそ竜にとっては本来の場所である。カッパを従え、堂々と泳ぐ姿は神々しい。

土曜日は穏やかなキモチになります。こんな穏やかな日にはいろいろ思い出して悲しくなってくるなあ。まだニンゲンとして弱いからなのであろうか。

父はお金持ちで母は美しかったあの夏の日のことなど・・・。

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清の時代のことですよ。

湖州帰安県の菱湖鎮に某という正直者がいて、

以売碗爲業。

碗を売るを以て業と為す。

陶器を売るのを家業としていた。

このひとが女房をもらったのだが、この女房は、

甚美、而持家勤倹、異於常人。

甚だ美にして、家を持すること勤倹、常人に異なれり。

たいへんな美人であった上、家庭では勤勉で倹約で、ふつうのヨメさんとは違っていた。

んじゃと。

ある日、女房が夫に言うには、

我見子作此生涯、飢寒如旧、非計也。子如信吾言、自有利益。

我、子のこの生涯を作すを見るに、飢寒旧の如く、計にあらざるなり。子もし吾が言を信ずれば、自ずから利益有らん。

「あたしがあんたのこれまでの暮らしを見ていると、いつまでも食べ物も着るものも十分ではないし、どうもうまくいっていないようだよ。そこで、あんたがもしあたしのコトバを信じてくれるなら、だんだんいい暮らし向きになっていくと思うのだけどねえ」

「ああ、信じるともさ」

夫は女房の言うとおりにした。まずは家業を棄てて、いろんなものを行商することにした。品物はいつも女房が値段も数も指示するのである。

不及十年、遂至大富。

十年に及ばずして遂に大富を至せり。

十年も経たないうちに、たいへんな長者となった。

んじゃと。

やがて夫婦の間には二人の子どもも授かり、二人ともえろう智慧のある子らで、都からお師匠さんを呼んで、難しい学問を教えてもろうておったそうじゃて。

しかしこの女房は、

惟毎年端午輒病、而拒人入房。其夫不覚也。

ただ毎年端午のみはすなわち病み、人の房に入るを拒む。その夫は覚えざるなり。

毎年毎年、五月五日の端午の日には、「体調が悪いんじゃ」と言って部屋に籠り、誰かが部屋に入って来るのを禁じるのだった。ただ、夫はのんびり屋だったので、「そういうこともあるじゃろ」と気にかけていなかった。

ある年のことじゃ。

九歳になった上の子どもが、五月五日に、そっと母親の部屋に入り込んだ。

すると―――――!

見大青蛇蟠結于牀、遂驚叫反走、回視則母也。

大青蛇の牀に蟠結するを見て、ついに驚叫して反走するに、回視すれば母なり。

どでかい青蛇が、母のベッドの上にとぐろを巻いておったんじゃ。

「うわーーーーーーーーーー」

子どもは驚いて叫び声をあげると逃げ出そうとした。すると、

「何を驚いているのだね」

と声をかけられ、振り向くと、ベッドの上には母がけだるそうに寝ていたのである。

「????????」

子どもが次の塾の日、このことをお師匠さんに話したところ、お師匠さんはたいへん心配して、夫に

「誰か立派な道士かお坊さんにでも見てもらうのがよろしいのではないか」

と忠告した。

それを聞いた女房は、

謾罵曰、吾家家事何与先生。

謾罵して曰く、「吾が家の家事、何ぞ先生に与(あず)からん」と。

どえらい怒りだして、

「わしらの家の問題じゃ! なんでお師匠さまにご相談せねばならんのかッ!」

とお師匠さまに向かって怒鳴りつける始末。

そして、

是夕忽不見。

この夕べ忽ち見えず。

この日の夜、女房はどこかに行ってしまった。

んじゃと。

乾隆初年事。

乾隆初年の事なり。

乾隆元年(1736)ごろのことであった。

んじゃ。これでおしまい。

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清・銭泳「履園叢話」十六より。

わーい、これは「水の女」型説話です。西欧では「へび奥方メリジューニ伝説」、東アジアでは古くから「タニシ女房説話」で親しまれるタイプ、我が国皇祖神話にもその素朴な形が伝承される、水族の女と婚姻した男が富貴を得るが、やがてその女は水に帰るが、永久に子孫の幸福を保証する、というパターンのやつです。清のころはまだまだチャイナには沼沢や森林が多くあって、開拓民たちはヘビが好きだった?のでこの話を伝えたのか、あるいは西欧の伝説とあまりに似ているので、それが翻案されたものと考えるのがいいのカモ。

いずれにしろ、母なるもの=大地母神は、つねには隠されているがどこかに永遠に存在している、というのが洋の東西はもちろん問わないクロマニョン人の脳みその底の方に入っているのでしょう。明日は母の日なので、現実のママの向こうにいる「母なるもの」についても考察を深めていただきたい。

(注)更新してから気づきましたが、明日は父の日だったんです! 世間のこと、あまりよく知らないんで情ない・・・。

 

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