ぶたとのに褒められる「天下第一好漢」モグ某。
明日も休みである。さて、そろそろ明後日が来る前に逃げ出す算段をせねばならんぞ。
でも今日のところは明日も休みなので、カッコいいやつの話をします。
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清の乾隆年間(1736〜1795)のこと、荘方耕という役人が地方学校の視察に出張することになった。
臨行、有友人謂曰、天下第一好漢常某、河北秀才也。宜物色之。
行くに臨んで友人の謂う有りて曰く、「天下第一好漢・常某は、河北の秀才なり。よろしくこれを物色すべし」と。
出発間際にある友人が教えてくれたことには、
「天下第一の伊達男、常なにがしは河北の学校に属する学生だということだ。会ってみるといいだろう」
「そうなのか」
河北の視察の時に調べてみると、
果有常某、滑県人、試文平平。
果たして常某なるもの有り、滑県の人、文を試みるに平平なり。
確かに常なんとかという秀才(学校に所属する者)が学籍にあった。滑県のひとで、作文の試験では「中の中」という成績だった。
視察官として面接する名簿に入れてみたところ、呼び出しどおりの日に面会に来た。
その様子を見るに、
弱不勝衣、一顧影少年也。
弱にして衣に勝えず、一の顧影の少年なり。
「顧影」というのは、「晋書・何晏伝」にあるコトバで、何晏は美貌の青年で、自らも自信があるのでお化粧をしていつも身だしなみを整えていた。その様子は、
粉白不去手、行歩自顧影。
粉白手を去らず、行歩に自ら影を顧みる。
おしろいを手放すことが無く、出歩くといつも自分の影を振り向い(て、身だしなみが乱れていないか注意し)ていた。
と言われたことから、「自分の姿形を気にかけ、おしゃれを誇ること」を言います。
弱弱しくて着ている服さえ重そうな、自分のおしゃれを気にしているような若者である。
(ほんとうにこいつが「天下第一の男伊達」なんかな?)
と首をひねりながら、「実は・・・」と呼び出した理由を正直に告げてみた。
すると常秀才は、
抑然自下、但求訓示。
抑然として自ら下り、ただ訓示を求むるのみ。
遠慮深そうに謙遜し、ただ「どうかどのように学問を進めて行けばいいかお教えください」と教えを求めるばかりであった。
又再三問、卒不肯言。
また再三に問うも、ついにあえて言わず。
さらに二度、三度と確認してみたが、とうとうそのことについては何も言わなかった。
しかたがないので、とおりいっぺんに「更に学問にはげむように」という訓示をして引き上げさせた。
「ありがとうございました」
と引き上げる直前、常秀才は、ちらりと荘に目配せをして、
以一指徐按案頭硯盒而去。
一指を以ておもむろに案頭の硯盒を按じて去れり。
一本の指で、ゆっくりと、机の上にあった硯箱を撫でてから、出て行った。
(何のおまじないだろう?)
秀才が去った後、硯箱を見たが、
盒繊毫無損。
盒は繊毫も損なう無し。
箱にはかすかな傷も無かった。
ところが、
啓視、硯已粉砕。
啓視すれば、硯すでに粉砕せられたり。
箱のふたをとってみると、中の硯はいつの間にか粉々になっていた!
うひゃーーーー!
「硯はもう死んでいた」のです。
さらに聞いたところでは、
一人習跳躍三十年、縦横二十丈、自爲無敵、訪常。
一人、跳躍を習うこと三十年、縦横すること二十丈となり、自ら無敵と為して常を訪ぬ。
ある男、飛び跳ねることを三十年間鍛え続け、前後左右に30〜40メートルも跳べるようになって、自ら「敵はいない」と称して常秀才のところを訪ねてきた。
異種格闘技戦を望んできたのである。
常はその男にニ三度飛び跳ねさせると、
「大したものですね」
と微笑したんだそうです。
其人曰、君能追及我否。
その人曰く、「君よく我を追及するや否や」と。
そのひとは言った、「あんた、わいの動きについてくることができるんかい?」
常は言った、
可於十丈外試躍、当邀君回。
十丈外において試みに躍すも可なり、君を邀え回すべし。
「20メートル以上離れたところで試しに飛んでみてくれませんか。おそらくあなたを捕まえることができると思います」
「よういうたな」
其人如言躍、未離地、常已挈之転矣。
その人、言の如く躍するに、いまだ地を離れざるに、常すでにこれを挈(と)りて転ず。
そのひと、言われたとおりに飛び上がってみたが、飛ぼうとしてまだ地面を離れていない瞬時の間に、常秀才は彼のところに近寄って来ていて、その体をつかむとひっくり返した。
何度やっても同じであった。
ああ。
いかにその姿が文弱であったとしても、
技神至此、宜爲江湖推重也。
技神ここに至れば、よろしく江湖の推重するところと為るべし。
これほどの神技を持つのである。任侠たちの間で重んじられ敬われるのも当たり前であろう。
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わーい、カッコいい。「翼駉稗編」巻三より。今日読んだばかりの一編だが、あんまりカッコいいので今日のうちにみなさんに教えてあげました。明日になったら、月曜日の恐怖に心がさもしくなってくるので、「こんなカッコいい話を他の奴らに教えるのはもったいないぜ」というキモチになって一人でニヤニヤ楽しんでいたかも知れません。