出会ったやつとお酒でも飲んで心を開きあう、ということなどそう簡単に出来るわけではない。
横綱がお酒で乱れて大事件を惹き起こしたそうなんです。楽しい場のはずがなんてことに・・・。しかしお酒のせいで気まずくなってしまうことはよくあるのである。
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唐の李蠙(り・ひん)は王鐸と同じ年の科挙合格者であった。
二人はあまりそりが合わなかったようで、
蠙常恐鐸先大用。
蠙、常に鐸の先に大用せらるるを恐る。
李蠙のいちばんの心配事は、王鐸が自分より先に出世してしまわないか、ということであった。
ところが李蠙は地方に出ることになり、一方、
鐸柔弱易制、中官愛之、将命鐸焉。
鐸、柔弱にして制せられ易く、中官これを愛し、まさに鐸に命せんとす。
王鐸は弱腰でひとに利用されやすい性格であったため、宦官たちは操りやすいと考えて、いよいよ王鐸が宰相に命じられることとなった。
李蠙はこのことを知って、
「そうか。あいつがとうとう宰相さまか。いつまでも気まずいままというわけにもいかんな」
と言いまして、
挈酒一壺。
酒一壺を挈(さ)ぐ。
酒壺を一つ引っ提げて王鐸の家に行った。
そして、王鐸に、
公将登庸矣。吾恐不可及也。願先是少接左右、可乎。
公まさに登庸されんとす。吾、恐るらくは及ぶべからざらん。願わくばこれより先、左右に少しく接すること、可ならんか。
「おまえさんはいよいよ出世することになったな。わしはどうやらおまえさんにかなわんようだ。これからは、おまえさんのところにもう少しお邪魔させてもらって、部下のようにしてもらいたいものだが、よろしいか?」
と言って、
即命飲鐸。
即ち鐸に命飲す。
王鐸に、持ってきた酒を飲むように勧めた。
「おまえさんに飲んでもらって、ご家族にもお勧めしたいのだが・・・」
これを別室で聴いていた王鐸の妻の顔が青ざめた。妻は、
使女奴伝言於鐸、曰、一身可矣。須為妻児謀。
女奴をして鐸に伝言せしめて曰く、「一身可なり。すべからく妻児のためには謀るべし」と。
王の妻は、下女を通じて王鐸に伝言させた。
「あなたがどうするかご勝手ですが、妻や子のことは心配してくださいね」
そのコトバを洩れ聞いて、
蠙驚曰吾豈酖者。
蠙、驚きて曰く「吾あに酖する者ならんや」と。
李蠙はびっくりして言った。「わしが毒なんか持ってくるようなニンゲンに見えていたのか?」
即命大白満引而去。
即ち大白を命じて満引して去る。
「大白」は巨大なさかづきです。
すぐに巨大な盃を持ってこさせ、一壺の酒をそれに入れると、自分で全部飲み干して、帰っていった。
これ以降、もっと気まずくなってしまったそうである。
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李蠙や王鐸の妻の意志や行動はわかるのですが、王鐸が何を考えていたのかまったくわかりません。ヨメの態度を見ても、確かに柔弱でひとに利用されやすい人柄であったのだろうと想像されますね。でぶー。