何か食べていると寄ってくるひよこどもだが、食べ物にはなみずをつけておけば彼らも寄って来なくなるのである。このように先回りして対処する知恵を持つことは重要である。
まだ火曜日。今週も長いなあ。まあおいらは失踪しているのであまり関係ないのですが、現世におられる方々はたいへんだなあ。
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戦国時代のことだそうでございますが、秦王に政務を取り次ぐ郎中職に段産というひとがいた。なかなか機転も利き、王の信頼もあったようでございます。
そうすると、それを謗る者が出るのは世の習いでございまして、同じころ王の親族として権力を持っておられた新城君という方に対して、
「段産めは、立場を利用して王に貴族の方々のことをあしざまに申し上げておられるとかなんとか・・・」
と讒言する者があったらしい。
「らしい」と言いますのは、段産のところまで、
「こんなこと言われてますよ」
とわざわざ耳に入れてくれるひとがあったので知れた。
そこで段産は新城君に拝謁を願い出て、こんなことを申し上げたそうなんである。
夫宵行者、能無為奸而不能令狗無吠己。
それ、宵に行くものは、よく奸を為す無きも、狗をして己に吠ゆること無からしむあたわず。
「あのう、夜中に歩いているやつは、たとえ悪事をすることがなくても、イヌが、自分に向かって吠えるのを止めさせることはできないものです。
夜中にひとがやってきたら、どんなひとに対してもイヌは吠えるんです。
今臣処郎中、能無議君於王、而不能令人毋議臣於君。願君察之也。
今、臣は郎中に処(お)り、よく君を王に議すること無きも、人をして臣を君に議するかならしむあたわざるなり。願わくは君、これを察せよ。
今、わたくしは郎中の職にあります。(しかし、王の信頼篤い)あなたさまのことを王に何か申し上げるようなことなどできようはずはございません。それでも、誰かがわたしのことをあなたさまにいろいろ申し上げるのを止めさせることはできないのです。どうぞ、このことを、よくご理解いただければと思います。
王のお側に仕えている者がいると、どんな者であったとしても、吠えてかかるやつがいるものなのでございます」
これを聞いて新城君は苦笑し、
「あなたもごくろうしておられるようですね」
と労ったということでございます。
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「戦国策」巻三・秦上より。おいらはもうだいぶん前に地下に潜ってしまったので、誰も何も教えに来てくれませんが、地上にいるといろいろ耳に入れてくれるひとは多いみたいですから、何事に巻き込まれてしまうかも知れません。はやくこちらに来た方がいいのではございませんか、ということをお耳に入れておきますぞ。