平成29年7月6日(木)  目次へ  前回に戻る

ぶたたちにとっては、これぐらいの食糧は大したことはない。ぶた国は、それほど炭水化物については豊かな国なのである。

今週はまだもう一日あるとは。しかし来週がまた来ることへの絶望感を思えば明日まだ一日あることなど大したことはない・・・かも知れない。

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大した話ではないのですが、河東出身の薛機さんの言うところによれば、

其郷有患耳鳴者。時或作痒、以物探之、得虫蛻軽白如鵞毛管中膜。

その郷に耳鳴を患う者有り。時にあるいは痒を作し、物を以てこれを探るに、虫蛻の軽白にして鵞毛の如きが管中に膜せしを得たり。

うちの田舎には耳鳴りに悩んでいたひとがいました。・・・あるとき、あんまり耳の中がむず痒いので、耳かきみたいなもので中を突っついてみたところ、ガチョウの毛のようにふわふわと軽くて白いヘビかなにかの抜け殻らしいのが、耳の穴の中から出てきた。

「なんじゃ、これは」

と不思議に思ったが、なにものの抜け殻かよくわからなかった。

次の日、

与其侶併耕、忽雷雨。

その侶とならび耕すに、たちまち雷雨す。

その仲間と並んで畑を耕しているとき、突然かみなりが鳴り、雨が降ってきた。

そのひと、

今日耳鳴甚。

今日、耳鳴甚だし。

「今日は昨日までよりも耳鳴りがひどいのう」

と言っていたのだが・・・、

未幾、雷震二人皆踣地。其一蘇、一脳裂死。

いまだ幾ばくならずして、雷、二人を震して皆地に踣(たお)る。その一は蘇り、一は脳裂けて死せり。

その直後、「どすうううん」とカミナリが落ちて、二人はともに地面に倒れた。やがて、そのうちの一人は息を吹き返したが、もう一人は頭が割れて死んでいた。

さて、亡くなったのはどちらの人だったでしょうか?

答えは―――

即耳鳴者。

即ち耳鳴者なり。

耳鳴りのしていた方のひとであった。

乃知龍蟄其耳、至是化去。

すなわち知る、龍その耳に蟄し、ここに至りて化去せるなり。

これでようやくわかったのであるが、もともと龍がその人の耳に冬眠していたのである。昨日、脱皮して、今日、空に帰ったのだ。

カミナリは地上にいる龍が呼び寄せて、それに乗って空に帰る道だ、といわれるからである。

・・・という話を聞きまして、

「そういえば・・・」

と浙江・松江のひと戴春さんがおっしゃるには、

其郷有衛舅公者、手指甲内見一紅筋、曲直蜿蜒。

其の郷に衛舅公なる者有り、手指の甲内に一紅筋の曲直蜿蜒たるを見(あらわ)す。

うちの田舎には、衛おじさんと呼ばれるひとがいまして、このひと、手指の背中に、一本の赤い筋が走っていて、手の甲いっぱいにうねうねとまがりくねっていた。

村びとはみんな、

此必承雨濯手、龍集指甲。

これ必ず雨を承けて手を濯い、龍、指甲に集まりしならん。

「こりゃあおまえさん、雨を手にうけているうちに、龍が指の背に入り込んでしまったんじゃろう」

と言ってまして、衛おじさんもその気になって、自らその手指の甲をひとに見せては、

赤龍甲。

赤龍甲なり。

「赤龍の背びれですじゃ。うほっほ」

と喜んでいたんです。

ある日、

与客泛湖、酒酣、雷電繞船、水波震蕩。

客と湖に泛かび、酒たけなわにして、雷電船をめぐり水波震蕩す。

客人と船にのって湖を遊覧していたときのこと、お酒もだいぶんめぐってきたころおい、カミナリが船のまわりに落ち、湖水はゆらぎ、波だった。

「うわあ」

と客人は恐れたが、衛おじさんはいい加減酔っ払っていたので気が大きくなっていて、

戯客曰、今日吾家赤龍将無去耶。

客に戯れて曰く、「今日、吾家の赤龍まさに去らんとする無きや」と。

客人にふざけて、

「今日こそ、もしかしたらわしにとりついている赤龍が、天に帰ろうとしているのかも知れませんなあ」

と言いまして、

「がはがは、どうかな」

露手船窗外、龍果裂指去。

手を船窗の外に露わすに、龍果たして指を裂きて去れり。

手を船の窓から外に出した、その瞬間―――ぱあん! と手指が裂けて、そこから確かに小さな龍が飛び出し、空に消えて行った。

・・・というのです。ほんとですよ。

さて、この二人の話を聞いて思い合わせるのは、三国志で名高い関羽のことである。関羽将軍はすばらしいヒゲをはやしていたというが、あるとき、

当雷雨之会、一長髯忽脱、化為龍飛去。

雷雨の会に当たりて、一長髯たちまち脱し、化して龍と為りて飛び去れり。

カミナリが鳴り、雨が降った際、一本の長いヒゲが「するする」と抜けると、龍に変化して飛び去ってしまった。

それ以降、将軍は急にふにゃふにゃしてしまい、

遂有呂蒙之難。

遂に呂蒙の難有り。

やがて呉の呂蒙に敗れてくびを斬られてしまった。

というのである。

このこと、あながちつくりごとではないのかも知れない。

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うーん、そうかも知れない気もしてきた。いずれにしろ大したことではなさそうなのですが。

明・江盈科「聞紀」より。今日のシゴト上の失敗も大したことではない・・・といいのだが、そうはいかないのだなあ。

 

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