平成29年5月14日(日)  目次へ  前回に戻る
あんまり要らないことを抱え込まずに生きたいでモグるん。

今日は朝方大陸間弾道的ミサイルが飛んだそうですが、関東は雨上がりで、しかし日差しがあまり無くて、過ごしやすい一日だったなあ。明日はどんな日かなあ・・・

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五月十三日、晴。来。先是、雨両日、夜不止、至是晴。屋板稍壊、命匠尽改作之。

五月十三日、晴れ。来たる。是より先は、雨ふること両日、夜も止まざるに、是に至りて晴れたり。屋板やや壊れ、匠に命じてことごとくこれを改作せしむ。

五月十三日は晴れた。(この別荘に)来た。これ以前の二日間はずっと雨で、夜中も降り続けていたが、今日になったようやく晴れた。屋根の板があちこち壊れて雨漏りしてきたので、大工に命じて屋根全体を直すことにした。

そうですか。

琴姐与瑞香向余乞題。乃書初夏雨荘四字及空中風三字与之。

琴姐と瑞香、余に向かいて題を乞う。すなわち「初夏雨荘」の四字、及び「空中風」の三字を書してこれに与う。

お琴嬢と瑞香がわしに向かって何か書き物をしてくれ、というので、わしは「初夏、雨の別荘」四字と、「空・中・風」の三文字を書いて、与えた。

琴姐はこの時期よく来ている西村庸齋家のお嬢さん。瑞香はこの別荘の女主人で、わしの愛人じゃ。

この題で、わしも絶句二首を作ってみた。

光陰九十忽成空、 光陰九十たちまち空と成し、

春過匆匆短夢中。 春は匆匆として短夢の中に過ぐ。

枕上何来紅一片、 枕上に何か来たりし、紅一片、

夕陽庭後落花風。 夕陽庭後の落花の風。

日と夜とそれぞれ九十、(合わせて三か月、)あっという間に終わってしまった。

春ははやばやと、まるで短い夢の中のことのように過ぎて行ったのだ。

枕もとにひとひらの赤いものがあるのは、いったいなんだ?

夕映えの庭の向こうから、花を散らす風に乗って、ひとひらの花びらが舞い込んでいたのだ。

琴姐女史が来ていたので、「赤い花が舞い込んだ」などとちょっと戯れを含んでいる。われながら、巧いな。

もう一首。

可知諸相本来空、 知るべし、諸相本来空なり、

物化紛更瞬目中。 物化は紛として瞬目の中にあらたまる。

芍薬早残牡丹謝、 芍薬つとに残にして牡丹謝(さ)き、

紫藤花拆又薫風。 紫藤の花拆(ひら)きてまた風を薫らす。

 あらゆるものは本来空虚である、という仏法のことわりがよくわかるであろう、

 モノはどんどん変化して、目をまばたく間に新しいものになっていく。

 シャクヤクの花はもう散り始め、ボタンの花が咲いている。

 むらさきのフジの花が開き初め、また香を風に乗せている。

いかにも知的な若い女がよろこびそうなうたになったぞ。わりかし巧いな。

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「墨水別墅雑録」巻二より「明治二十五年(1892)五月」。当時著名の漢文学者・依田学海が、妾宅としていた「墨水別墅」(ぼくすいべっしょ)での日々の出来事や作品を記録した日記である。ちなみに神田の本宅で書いていた日記は「学海日録」でこちらの方が有名です。

5月13日、今(2017)からちょうど125年前の東京では、二日続きの雨が上がって、晴れ上がったようですよ。・・・と思ったが、今日は5月14日でした。125年+1日前であった。

依田学海は天保四年(1833)の生まれなので、この年は満なら59歳。十年以上前から妾として世話している山崎瑞香女史は28歳である。十代半ばから手をつけたらしいんです。森鴎外の「ヰタ・セクスアリス」(をわたしは読んだことがないのですが)にも「文淵先生」とその「お召使い」として登場してくるそうですが、「若い愛人とは怪しからん」と思うかも知れませんが、瑞香女史はヒステリー発作と思われる行動が多く、また学海には正妻とその子女もありますので、老後に瑞香とその息子(自分の次男)に遺す遺産でたいへんもめたりしたらしいので、やっぱり「ああよかった、そんなめんどくさい人生送らなくて」と、ほっとするではありませんか。

 

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