平成29年2月22日(水)  目次へ  前回に戻る

たとえ弱肉強食の定めとはいえ、ニンゲン以外のドウブツどうしは案外仲良しなのである。人間さえいなければ・・・。

しかしニンゲンにもこんなかっこいい人もいたのだ、というお話。

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明・萬暦(1573〜1619)の初めごろ、山西・太原に程十四という男がいた。

気はある程度優しいのだが力持ち、

身長八尺、筋骨皮肉殆非人類。

身長八尺、筋骨皮肉ほとんど人の類にあらず。

身の丈2.5メートル、筋肉や骨組みや皮膚など、ニンゲンとは思えないほどであった。

地元でからかうやつなどいなかったが、河南に出かけたとき、動きがのそのそしているので、

里悪少有力者狎而侮之、程怒、奮拳梃之于墻、去地尺許、手足無所施。

里の悪少の有力なる者、狎れてこれを侮るに、程怒り、拳を奮いてこれを墻に梃し、地を去ること尺ばかり、手足施すところ無し。

地域の不良どもの中の力自慢が、なめてかかって侮蔑した。

「なにいうだね」

程は怒り、そいつを手でつかんで持ち上げて土塀に押し付けた。足は地面から一尺ばかり浮いてしまい、力自慢の若者も手も足も出ない状態となった。

「こいつ、放しやがれ」

「いやだね」

群少譟而撃之、至于鉄尺撾其脛百数、程若不聞也。

群少譟ぎてこれを撃ち、鉄尺にてその脛を撾(う)つこと百数に至るも、程聞かざるがごとし。

コブンどもが騒いで程に殴り掛かり、鉄の定規でそのすねを百何回もぶん殴ったが、程は気にも止めないようであった。

「うははは、効かないぞー」

やがて、

「おめえにも親御がおろうからな」

と、

垂死乃放之。

垂死すなわちこれを放つ。

相手が(窒息して)ほとんど死にかけたところで、放り出した。

という。

ほかにもいろいろ武勇談のある男で、一時華北一帯で有名であった。

かつて

搏一虎、生挟之欲帰、又一虎突至。

一虎を搏ち、これを生きて挟みて帰らんとするに、また一虎突至するあり。

一頭のトラを殴りつけ、気を失ったのを生きたまま手に摑んで家に帰ろうとしたところ、別のトラが突っ込んできたことがあった。

程は、

倉卒中以所挟虎撃之、両砕其首焉。

倉卒中、挟むところの虎を以てこれを撃つに、その首を両砕せり。

とっさに、手に持っていたトラで突っ込んで来たトラを殴りつけたところ、

ぼかん。

両方のトラの頭を粉砕してしまった。

仕方なく頭の無いトラを二頭持ち帰ったが、その毛皮は安値で買いたたかれた、ということもあったそうである。

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明・謝肇淛「五雑組」巻五より。人間相手にやっつけるのはスバラシイが、おいらたちドウブツをいじめるのはよくありませんよー。ぶうぶう。

 

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