変なイヌが出るとマズイことが起こるカモ!
もうダメだ。疲れがたまってきました。変な話でもするか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
変な話です。
唐の大暦年間(766〜779)、代宗皇帝の宰相であった王縉さまが、ある日、朝廷に出仕したときのことでございますが、
天尚早、坐於燭下、其榻前有嚢。
天なお早く、燭下に坐するに、その榻前に嚢有り。
まだ朝が早くて夜が明けておらず、灯火をつけて座っていると、座席の前になにやら袋があるのが目についた。
足先が当たってジャマになる。
「この袋、ジャマだからどこかへ持って行きなさい」
と侍童に命じると、
「わかりまちたー」
侍童掣以進。
侍童掣して以て進まんとす。
侍童は持ち上げてどこかに持って行こうとした。
ところが、
「あり?」
覚其重、不能挙。
その重きを覚え、挙ぐるあたわず。
なんやらひどく重くて持ち上げることができない。
「う〜ん、これは重いでちゅぞ」
「どれどれ、なにが入っているのじゃ?」
王縉さま、その袋を開いて中身を覗いてみた。
「うわっ」
忽有一犬長尺余、質甚豊、自嚢中躍出。
たちまち一犬の長尺余にして質はなはだ豊かなるが、嚢中より躍り出づ。
突然、袋の中から、体長40〜50センチのたいへんまるまる肥ったイヌがとびだしてきたのであった。
「わん!」
と鳴くと、イヌはどこかに駆け去ってしまった。
王縉さまは大いにびっくりされまして、振り返って同行のその子に向かって言うに、
我以不才、謬居卿相。無徳而貴、常懼有意外之咎。
我不才を以て謬(あやま)ちて卿相に居る。徳無くして貴きは、常に意外の咎有るを懼る。
「わしは大した能力も無いのに、わけもわからずに宰相大臣の位についておる。徳が無いのに高い地位におると、思ってもみなかったわざわいがあるので、イヤなんだよなあ。
それなのに、
今者異物接踵、豈非禍之将萌耶。
今、異物踵に接す、あに禍いのまさに萌さんとするにあらざるや。
今、へんなものが足先に当たっていたのだ。どうして禍が起こりかけている兆しだ、ということを否定できるだろうか(、いや、できない)」
と言っていたら、
後数日、果得罪、之貶為縉雲守也。
後数日、果たして罪を得て、これ貶して縉を雲守と為すなり。
それから数日して、果たして罪に問われることとなり、王縉さまは雲南の太守に左遷されたのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
唐・張讀「宣室志」巻三より。
このイヌは何だったのであろうか。