平成28年12月2日(金)  目次へ  前回に戻る

忍者はツラい職業である。しかしそれでも今のシゴトよりはいいカモ・・・と思うことも。

「やーい、やーい、でぶちん、肝冷ちゃい」

「出てこい、出てこい、肝冷ちゃい」

近所のコドモたちがわしの庵の前で囃し立てます。わしの庵には結界が張ってあるから、コドモたちが中までイタズラをしに来ることは無いのだが、うるさいので、庵の門から顔を出して、

「うるさいぞ!」

と怒鳴りつけてやると、

「わーい」

コドモたちは逃げ散ってしまいました。が、一人逃げてないやつがいるぞ。こいつをとっちめてやるか。

と、門から外へ出ますと・・・

「ん? コドモにしてはでかいな。・・・あ!」

「わっはははは、肝冷斎、引っかかりおったな」

一族の長老・泥冷斎だ。

「しまった」

結界を張った庵の門内に引き返そうとしたが、既に一族の若い者がわしと門の間に回り込んでおり、逃げ込むことはできない。

「コドモたちに肝冷斎を結界の中からおびき出せば、一人五円づつやると騙しておびき出させたのだ。実際にはわしの全財産が五円ぐらいだから、報酬は払えないのだがな」

「むむむ、なんという恐ろしい策略なのだ。今更ながらニンゲンの恐ろしさを思い知ったわい」

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ニンゲンについて。

清の時代のことです。

有避仇竄匿深山者。

仇を避けて深山に竄匿する者有り。

ひとに狙われて、これを避けて深い山の中に逃げ込んだやつがいた。

木のうろに住んで谷川の水を飲み、持って来たわずかな干し飯で露命をつないでいたが、ある晩、谷川で水を汲んで木のうろに帰ろうとしたとき、

風清月白時、見一鬼徙倚白楊樹下、遂伏不敢起。

風清く月白き時、一鬼の白楊の樹下に徙倚するを見、遂に伏してあえて起たず。

風はさわやかで月が明るく、(それに誘われたか)幽霊が一体、白楊の木の下にやってきて、木に寄りかかって月を見ているのが見えた。そこで、そのひとは手前に身を伏せて、幽霊に見つからないようにした。

しかし幽霊の方が彼に気づきました。

訝曰、君何不前。

訝しみて曰く、「君なんぞ前(すす)まざる」。

怪訝そうに訊ねてきた。

「おまえさん、どうしてこちらにいらっしゃらないのですか?」

その人、ぶるぶる震えながら、

畏君耳。

君を畏るるのみ。

「あ、あなたさまが恐ろしいのでございます」

「へー」

幽霊はにやにやして、言った。

最可畏者莫若人、猛如虎豹、人且屠之。試問使君顛沛至此、人耶鬼耶。

最も畏るべき者は人に若くなし、猛なること虎豹の如きも人まさにこれを屠る。試みに問う、君をして顛沛(てんぱい)にここに至らしめしは、人なるや、鬼なるや。

「いちばん恐ろしいのは生きているニンゲンの方ですよ。トラやヒョウのような猛獣でも、ニンゲンは殺してしなうのですから。ちょっと訊ねてみますが、あなたを大慌てでこんな山奥に逃げ込むようなことをしたのは、生きたニンゲンですか? それとも幽霊ですかな?」

そして、

一笑而隠。

一笑して隠る。

「うひゃひゃひゃひゃひゃ」

と大笑いすると、すうっと消えてしまった。

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清・朱海「妄妄録」巻十一より。

ニンゲンはイヤだなあ。

「わしはニンゲンはイヤなのじゃ。絶対に会社になんか行くものか」

わしは、ひょい、と門の上に飛び上がり、そこから猿飛の術を用いて屋根から木の枝へ飛び移り、さらに

「忍法、むささびジャンプ」

と唱えると、くる、くる、と二回転して別の大木に移った。

ここまで来れば大丈夫だろう。

「わはは、とらえられてたまるものか」

と逃げ・・・・わ、しまった! 投網の術か!

 

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