冬眠前送別会に出場して「男勝負のくまざくら」を渋く歌い上げるクマ。誠実そうである。春まで出てこないとありがたい。
今日はスーパームーン。雨のために月を見ることができませんが、満月の地球表面を引っ張る力は届いているはずです。
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むかしむかし。天竺でのこと。
有梵志、従国王丐。
梵志有りて、国王に従いて丐す。
修行者がおりまして、ある日の朝、王宮の門前に至り、王さまに施しを求めた。
王さまはちょうど大好きな狩猟に出かけるところだったので、修行者を御殿に入れて、
須我方還。
我がまさに還るを須(ま)つべし。
「わしが帰ってくるまで待っておってくれ」
と言い置いて出かけていった。
狩猟をして獲物の後を追いかけているうちに、臣下の者たちとはぐれてしまい、森の中にさまよいこんだ。
そして
与鬼相逢、鬼欲啖之。
鬼と相逢うに、鬼、これを啖らわんと欲す。
悪鬼と出会ってしまった。悪鬼は「こりゃ美味そうに肥っているな」と王さまを食べようとした。
仏教経典の「鬼」はチャイナ一般の「鬼」である「幽霊」ではなく、「精霊」「悪鬼」というべきものですので、ここでは森の中にいた「悪鬼」と表記します。
王さまはおっしゃった。
「待ってくれ。
朝来于城門中、逢一道人、従我丐。我言、止殿上待還。
朝、城門中より来たるに、一道人の我に従いて丐するに逢う。我言うに、殿上に止まりてしばらく待て、と。
今日の朝、まちの門から出てこようとしたとき、一人の修行者がわしに施しを求めてきた。わしは「わかった。狩猟に出かけてくるので、御殿で待っていてくれ」と約束したのだ。
そのままになっている。
今乞暫還、与此道人物已、当来就卿受啖。
いましばらく還るを乞いて、この道人に物を与え已みて、まさに来たりて卿に就きて啖らうを受けん。
少し時間をもらって御殿に帰らせてもらえないか。その修行者に施しモノをして、それから戻ってきて、あなたに食べていただこうと思うのだが・・・」
「はあ?」
悪鬼は首をひねった。
今欲啖爾、爾寧肯来還乎。
今なんじを啖わんとするに、なんじ、なんぞあえて来還せんや。
「わしはいまおまえを喰おうとしているのだぞ。おまえを一度帰らせてやったら、どうしてまた戻って来るなんていうことがあるものか」
と取り合わなかったのだが、王さまは言った、
善哉。誠無信者、我当念此道人耶。
善いかな。誠に信ずること無くんば、われまさにこの道人を念(おも)うべけんや。
「言っていることはよくわかった。しかし、わしが誠実でウソをつかない人でないなら、どうしてこのギリギリの時に修行者との朝の約束なんかを思い出すものか」
「ほう・・・なるほどリクツを言うのだな。ふん、では、せいぜい約束とやらを誠実に果たして来られるといい」
鬼則放王。
鬼すなわち王を放つ。
悪鬼は王さまを解放した。
さて、王さまは王宮に帰りつくと、
出物与道人、以国附太子、王還就鬼。
物を出だして道人に与え、国を以て太子に附し、王還りて鬼に附けり。
修行者に施しモノを与え、それから太子に跡継ぎとして国の切り盛りを任せ、それからまた森の中に戻ってきた。
「なんと、ほんとうに戻って来られたのか」
鬼見王来、感其至誠、辞謝不敢食也。
鬼、王の来たるを見て、その至誠に感じ、辞謝してあえて食わざるなり。
悪鬼は王さまが戻って来たのを見て、その誠実なのに感動し、「滅相も無い」と食うのをやめて去って行った。
―――我がお師匠さまがおっしゃるには、
この王さまは誠実な心を以て、もう失われたかと思われた自分の命を救いだしたのである。
何況賢者奉持五戒、布施至意、其福無量也。
何ぞいわんや賢者の五戒を奉持し、布施の意に至るは、その福無量ならん。
おまえたちのような賢者が五つの戒めを破ることなく、心を尽くしてほどこしをするならば、やってくる幸福は量りがたいほどのモノとなろう。
と。
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呉・天竺三蔵康僧会訳「旧雑譬喩経」より。生きて帰ってしまって太子と権力争いとかしてないといいのですが。
満月の力も誠実に地球に届き、ぎゅうぎゅうと潮汐力で表面を引っ張っていますから、地殻が「ばちん」と外れて大地震が起こる可能性も高まっているハズである。昨日はニュージーランドがやられたらしい・・・。