世間の冷たい雨に心もやさぐれてしまったぜ。
二日続けてちょっとたくさん食っただけで体重・血圧増。おまけに今日は冷たい雨まで降ってきた。明日もツラい予定なんです。
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「涅槃経」に曰く―――
迦葉(かしょう)菩薩さまが言った。
世尊有密語、無有密蔵。
世尊には密語有り、密蔵有る無し。
お釈迦さまには、(コトバで説明しきれない、という意味で)秘密の教えがお有りだったが、それを秘密にされず、誰にでもわかるようにお教えになられたのだ。
と。
さて、チャイナの唐の時代、ある役人が座禅しに来て、ついでに雲居道膺(うんご・どうよう)禅師に質問した。
世尊有密語、迦葉不覆蔵。如何是世尊密語。
世尊に密語有りて迦葉は覆蔵せず。如何ぞこれ、世尊の密語。
「お釈迦さまには(コトバで説明しきれないという意味の)秘密の教えがあったが、(お釈迦さまから禅の神髄を伝えられたという)迦葉菩薩はそのことを隠すことがございませんでした。さて、お釈迦さまの秘密の教えはどのようなものであったのでしょうか。」
雲居大師は、しばらく無言であったが、突然口を開いた。
尚書。
尚書よ。
「お役人よ」
其人応諾。
その人、応諾す。
そのひと、とっさに「はい」と答えた。
大師曰く、
会麼。
会(うい)せるや。
「おわかりになりましたかな?」
役人は首をひねった。
不会。
会(うい)せず。
「わかりません」
大師曰く、
爾若不会世尊密語、爾若会迦葉不覆蔵。
なんじ、もし会せずんば世尊の密語なり、なんじ、もし会せば迦葉の不覆蔵なり。
「おまえさんがわからなかったところが世尊の秘密の教えじゃ。おまえさんがわかったところが迦葉の隠すことがなかったものじゃ」
わかりましたかっーーー!
二百年ぐらい経った後の後輩、宋の雪竇智鑑(せっとう・ちかん)、このことを弟子たちに話して、それから静かに偈を吟じて曰く、
世尊有密語、 世尊に密語有り、
迦葉不覆蔵。 迦葉は覆蔵せず。
一夜落花雨、 一夜、落花の雨、
満城流水香。 満城の流水香ばし。
お釈迦さまには秘密の教えがあって、
迦葉菩薩はその教えを継いで隠さなかった。
それは、ある晩、雨に誘われて花が落ち、
流された花びらのせいで町中の流水が香りたった―――ようなものだなあ。
お釈迦さまの教え(雨)が無言のうちに迦葉菩薩に伝えられて迦葉菩薩が悟り(花が落ちる)、迦葉菩薩から世界中(満城)に伝えられて行った(流水香ばし)、その流れの先にわしがおり、おまえたちがいるのだなあ、とおっしゃるのである。
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「伝燈録」より。その弟子たちの中に天童如浄というひとがいた。如浄の晩年、日本国から一人の僧がやってきて、如浄のもとで印可を得て帰国した。この僧が永平道元でありますので、この説教は道元の教えの中にも遺されております(「正法眼蔵」第四十五)。
雨に落とされて悟りを開く花もあったのでございます。だが、今日のおいらにとっては体重・血圧増のなみだ雨だぜ。