意識的な欲望ではなく無意識のうちに、悪意も無いのに人の分も食べてしまうことがある。
現世には何か変わったことはありましたか。今日は一日地下にいたので暖かかった。地下にいるとどうしても運動不足にはなります。
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明のときのとこですが、廬山の九天使者廟という道観に属する道士(氏名未詳)がおりまして、
体貌魁偉、飲啖酒肉、有兼人之量。
体貌魁偉にして、酒肉を飲み啖らい、人の量を兼ぬる有り。
からだがでかくて、酒は飲む、肉は食う、いずれも他のひとの分も飲食するというほどであった。
この道士が、「自分は昇天するのだ」と言い出して、江西・九江の町にやってきた。
郡斎有双鶴、因風所飄、憩于道館、回翔嘹唳、若自天降。
郡斎に双鶴有り、風の飄するところにより、道館に憩い、回翔し嘹唳すること、天より降るがごとし。
江西府の聖地には二羽の鶴がいた。強い風に飛ばされてきて、そのまま道教寺院に休んでいるとのことで、空に舞い上がり、りょうりょうと鳴くすがたなど、まことに天上からやってきたかのように清らかであった。
これを見て、道士は大いに驚き、
「やっとこいつを見つけた」
と喜びまして、自ら言うに、
当赴上天之召。
まさに上天の召に赴くべし。
「さあ、天上界からのお迎えに応えて、参上申し上げることにしよう」
そして、
命山童控而乗之。
山童に命じて控してこれに乗ず。
道観の童子に命じて鶴(のうちの一羽)を抑えさせて、その背中に乗ろうとした。
「よいちょ、よいちょ・・・さあ、道士さま背中にお跨りくだちゃいな」
「うむ。どっこいしょ、と・・・」
ところが、
羽儀清弱、莫勝其載、毛傷背折、血晒庭除、仰按久之。
羽儀清弱にしてその載に勝(た)うるなく、毛傷み背折れ、血は庭除に晒すも、仰ぎ按ずることこれを久しくす。
鶴は清らかだが弱い鳥であり、乗っかった道士の重さを支えることができず、毛はばらばらになり、それでもぎゅうぎゅうと乗っかったので、とうとう背骨が「ぼきっ」と折れ、血がぶしゅっと庭先に跳ねとんだ。しかし、道士は空を見上げたまま何とか飛び立たせようとしばらく鶴を押したり引っ張ったりしていた。
「うーん、こいつはどうもダメだな。そちらの鶴にするか」
「あい、抑えますよ、よいちょ、よいちょ・・・どうぞ」
「うむ。どっこいしょ、と・・・」
ぎゅぎゅぎゅ。ぎゅ。ぼきっ。ぶしゅ。
と、さっきと同じになりました。
こうして、
是夕皆斃。
この夕べみな斃る。
この夜のうちに二羽とも死んでしまった。
翌日、馴養者詰知其状、訴于公府。
翌日、馴養する者、詰してその状を知り、公府に訴う。
翌朝、その惨状をみた鶴を飼っていた者が、問い詰めて何があったかを知り、お上に訴え出た。
しかし、太守は
「努力したがダメだっただけで、悪意はないのだから」
と
不之罪。
これを罪せず。
道士を無罪としたのであった。
道士は
「天上からお召しが来ているのに、乗っていくべき雲も鶴も無いとは・・・。わたしはいつになったら天に昇れるのだろうか」
と嘆きながら、廬山に帰って行ったそうである。
さて、九江の処士・陳ロなるひと、これを聞いて歌いて曰く、
啖肉先生欲上昇、 啖肉先生上昇を欲するも、
黄雲踏破紫雲崩。 黄雲は踏破し紫雲崩る。
龍腰鶴背無多力、 龍腰も鶴背も多力無く、
伝語麻姑借大鵬。 麻姑に伝語して大鵬を借りん。
肉食らいの道士先生が空に昇ろうとしたが、
黄色い雲に乗ろうとして踏み破ってしまい、紫の雲は崩れてしまった。
そこで龍や鶴に乗ろうとしたが、龍の腰も鶴の背中も先生を乗せるほどのちからが無い。
こうなったら鳥のツメのようなツメをした仙女の麻姑さまにご連絡して、配下の鳳を遣わせてもらうしかあるまいな。
わっはっはっは。
これはおかしいなあ。
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明・江盈科「談言」より。わたしどもももともと大食らいの上に地下生活で運動不足で、肥満して動きも鈍くなって笑いごとではありません。今日もさくら水産で食ってきたので苦しい。毎日毎日こんなことでいいのであろうか。