平成28年11月3日(木)  目次へ  前回に戻る

「秋が深まってまいりました。おいらたちトンボは冬の服も無し。何処に行こうやら」「ぶう」

寒くなってまいりまして、そろそろ地上では冬の服が要りますが、わしらの一族には服が無いからなあ。明日は平日だし、さあ早く地下に潜ろう。

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唐の時代のことです。

山西・祁県のとある村人が、車を牽いて太原府に野菜を行商に行きましたのだそうです。

及帰途中日暮。有一白衣婦人立路傍。

帰るに及びて途中日暮す。一白衣婦人の路傍に立つ有り。

帰路の途中で日が暮れてきた。そのとき、道端の暗がりに、白い服を着た女のひとが立っているのに気付いた。

女は村人に言った、

妾今入都城、困而且憊。願寄載車中可乎。

妾は今都城に入るに、困じてかつ憊(つか)れたり。願わくば車中に寄載せられんこと可ならんか。

「わらわはさっき町に行ってきたのですが、ここで疲れ果ててしまったんです。お願い、その車に乗せて行ってくれないかしら」

「ええですだよ」

村民許之。乃升車。

村民これを許す。すなわち車に升る。

村人が許諾すると、女は「ひょひょい」とえらく身軽に車に乗った。

「では行きますだ」

行未四五里、因脂轄。

行くこといまだ四五里にして、因りて脂轄す。

四〜五チャイナ里(2キロぐらい)も行かないうちに、車のあぶらが切れたらしく、キイキイ言い出した。

「あぶらを挿さねばならねえだ」

と村人は車を止めて車軸にあぶらを塗ろうとし―――「?」

変なものに気づいた。

見一狐尾在車之隙中、垂於車轅下。

一狐尾の車の隙中に在りて、車轅の下に垂るるを見る。

車体の隙間から一本のキツネのしっぽらしいのが垂れて、車の横木の下まで下がっているのが見えたのである。

「おお、なるほどなあ」

村人は頷きまして、

「これはいけませんなあ」

と言いながら、

即以鐮断之。

即ち鐮(れん)を以てこれを断つ。

「鐮」は「鎌」と同じ。

すぐに、(車に乗せてある)鎌を手にして、車の下にもぐりこむと、しっぽをつかんですっぱりと斬った。

すると、

ぼ〜〜〜ん!

其婦乃化為無尾白狐、鳴嘷而去。

その婦、すなわち化して無尾の白狐と為り、鳴嘷(こう)して去りぬ。

その女は、たちまちしっぽの無い白キツネに変じて、「こーん」と鳴いて逃げて行ってしまった。

「わっはっは、人の車のあぶらを嘗めおって、怪しからんやつじゃ。これに懲りて人を化かすのは止めることじゃな」

村人はそのしっぽを首巻にしてその冬を過ごしたということである。

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唐・張読「宣室志」巻八より。

わーい、久しぶりでホントにコドモが聞いても安心なお話でございまちたー。おいらたちはこんな首巻無いから、さあ、早く寝まちて、明日も暖かい地下で遊んで暮らそう、と。シゴトは誰かするでちょう。

 

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