組織を背負って忙しくて、おひるは立ち食いソバ、のタコルスマン。ツラかろう。
職業社会、ツラいです。しかもツラいのに、まだ週は半ばにもならないとは。
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唐の終わりごろのことだそうですが、進士に及第した崔道紀というひと、及第のあと有力者らに招かれて江淮のあたりを旅していた。
宴会続きの毎日で、ある日、
過酒酔甚臥于客館中。
酒酔に過ぎること甚だしく、客館中に臥せり。
お酒を飲みすぎて、二日酔いで旅館に寝込んでいた。
「おい、冷たい水を持ってきてくれ」
「あい」
使其僕井中汲水、有一魚随桶而上。
その僕をして井中に水を汲ましむるに、一魚の桶に随いて上がる有り。
下僕に井戸から水を汲ませると、桶に一匹の魚が載って上がってきたのであった。
「わーい、だんなさま、えらく金色銀色にぴかぴかしたウロコの魚でございまちゅよ」
「これはいいな」
道紀喜曰、魚羹甚能醒酒。可速烹之。
道紀喜びて曰く、「魚羹ははなはだよく酒を醒ましむ。すみやかにこれを烹るべし」と。
崔道紀は喜んで言いました。
「魚のスープを飲むと二日酔いがすっきり醒めるからな。すぐこれを煮てスープにしてくれ」
「あい」
下僕は暴れる魚を鍋に突っ込んで、上からぎゅうぎゅうと蓋をしてぐつぐつと煮込みました。
「できまちたー」
「よし、すぐ食うぞ。今晩もお偉方たちと宴会だからな、その前にすっきりさせておかないといかんからな」
道紀は下僕には一杯も与えずに、スープを一人で全部食ってしまった。
「うはは、食った食った」
既食良久、有黄衣使者自天而下、立於庭中、連呼道紀。
既に食いてやや久しくして、黄衣の使者の天より下る有りて、庭中に立ち、道紀を連呼す。
食い終わってしばらくしたころ、空から黄色い服を着たエラそうな方が降りてきて、中庭に立つと、「崔道紀、崔道紀はどこか」と道紀を呼び続けるのであった。
「進士・崔道紀はわたしであるが・・・」
と返事をすると、そのひとは何やら文書を読み上げた。
崔道紀下土小民敢殺龍子。官合至宰相、寿合至七十、並削除。
崔道紀は下土の小民にしてあえて龍子を殺す。官まさに宰相に至り、寿まさに七十に至るを並びに削除す。
「崔道紀、なんじは地上に住む愚かな人民でありながら、おそれおおくも龍の御曹司を殺したのである。なんじは地上の役職は宰相に昇り、寿命は七十歳との予定であったが、その予定をここに削除する」
言訖昇天而去。
言い訖(おわ)りて天に昇りて去れり。
言い終わると、その人は天に昇っていなくなってしまった。
「な、なんだ、なんだ」
「なんだったんでございまちょうね」
と道紀と下僕は空を見上げていたが、
是夜道紀暴卒。年三十五。
この夜、道紀、暴卒す。年三十五なり。
この夜、崔道紀は突然死した。三十五歳であった。
七十歳が半分に削られたんですね。
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五代・杜光庭「録異記」巻五より。一週間を半分に削ってくれれば明日で終わりなのになあ。
考えるに、この魚はフグのような毒魚だったのカモ知れません。捕まえた下僕が自分の失敗を誤魔化すためにこんな話をでっち上げたのカモ。いずれにせよ明日からはピカピカの魚には気をつけましょう。