ぶうぶう。ブタとはいえ、へこたれるものか。
雨が降るとみんなウツっぽくなっていいですね。
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今日はかわいいブタちゃんのお話でーちゅ。
隋の開皇(589〜600)の末ごろということだが、渭南のひと、
寄宿他舎。
他舎に寄宿す。
他人の家に宿泊していた。
そのひと、夜半に目を覚ますと、なにやらごそごそ・ぶうぶうと話し声がする。
(ぶうぶううるさいなあ・・・)
と思いながら、聞くともなしに聞いていると、なんと、それは
二豕対話。
二豕の対話するなり。
この家の二匹のブタが会話しているのであった。
「ぶうぶう」「ぶいぶい」
一匹がいうには、
歳将尽。阿爺明日殺我供歳。何処避之。
歳まさに尽きんとす。阿爺(あや)、明日我を殺して歳に供えん。何れの処にこれを避けんか。
「もう今年も終わりでブウ。うちのおやっさんは、明日はおいらを殺して、年神さまのお供え物にすると思うんでブウ。どこに逃げたらいいものか」
「ぶうぶう」「ぶいぶい」
もう一匹が答えた。
可向水北姉家。
水北の姉家に向かうべし。
「川の北岸にあるねえさんの家に逃げるでブイ」
「そうするでブウ」
因相随去。
よりて相随いて去れり。
そして、二匹前後しながら出て行ったようであった。
―――朝になりました。
主人覓豕不得。
主人、豕を覓(もと)むるも得ず。
宿の主人、ブタを屠殺しようと探したが、見つからない。
疑是宿客得之。
疑うらくはこれ宿客のこれを得るか、と。
そこで、宿泊客が盗んだのではないかと疑った。
「滅相もない。それより・・・」
宿客言状。
宿客、状を言えり。
お客は、昨夜聞いたことをそのまま告げた。
「なんと!」
主人は驚いた。
「川向うに野生のイノシシが棲みついた穴があるが、それのことであろうか」
主人が近所のひとたちとともに狩り出しに行ってみると、イノシシは見つからなかったが、確かにその家の二匹のブタが潜んでおり、観念したように穴から
「ぶうぶう」「ぶいぶい」
と出てきた、ということである。
その直後のこと、
蜀王秀得罪、文帝将殺之。
蜀王秀罪を得、文帝これを殺さんとす。
蜀王の楊秀が罪に問われ、文帝さまに殺されそうになった。
そのとき、
平楽公主救之得全。
平楽公主これを救いて全きを得たり。
文帝の娘で蜀王の姉である平楽公主さまが弟のために命乞いをし、おかげで助かった。
ということがあった。
ブタたちの言動はこの事件を予知していたのかも知れない。
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そんなはずはない、と断言できます。そんな予知してもブタにとって何の得もありませんので。
唐・陸勲集「集異志」巻四より。ぶうぶう。