平成28年6月20日(月)  目次へ  前回に戻る

高いところから飛び込むように己れのすべてを棄てなければならない場はツラい。

やっと月曜日終了。今日は楽しい飲み会があったのですが、今週はこのあとツラい飲み会もある。果たしてひとり正気を保っていられるであろうか・・・。

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ある国に毒の雨(「悪雨」)が降ることがあった。この雨が降って

若堕江湖河井、城池水中、人食此水、令人狂酔。

もし江湖河井、城池水中に堕ちて、人この水を食せば、人をして狂酔せしむ。

もし川や湖や河や泉、あるいは都市部のため池の水の中に落ちて、ひとがこの水を飲んでしまうと、そのひとは酔ったように狂ってしまうのである。

この国の王さまは賢者であった。

悪雨雲起、王以知之、便蓋一井、令雨不入。

悪雨の雲起こるに、王以てこれを知り、すなわち一井を蓋いて雨を入らざらしむ。

毒の雨を降らす雲が湧いたとき、王さまは雲の形を見てこれを知り、すぐに王宮の井戸に蓋をして、雨が入らないようにした。

果たして毒の雨が降ったが、王さまはこの井戸の水を飲んでいたので狂うことがなかった。

一方、

百官群臣食悪雨水、挙朝皆狂、脱衣赤裸、泥土塗頭而坐王庁上。

百官群臣は悪雨の水を食し、朝を挙げてみな狂いて、衣を脱ぎて赤裸となり、泥土を頭に塗りて王庁上に坐す。

もろもろの臣下のものどもは毒の雨の水を飲んでしまったので、朝廷中みな狂ってしまい、服を脱いで素っ裸になって、泥を頭に塗りたくって王宮にやってきて思い思いに座った。

みな、狂気に満ちて輝く目をして、

あははは。

いひひひ。

へほへほへほ。

と笑いあっていた。

しかし王さまは正気であるので、

服常所着衣、天冠瓔珞坐于本床。

常に着るところの衣、天冠・瓔珞を服して本床に坐す。

いつものとおり服を着て、飾りのついた冠をつけて本来の席に座った。

これを見た群官たちはニヤニヤするのを止めて、眉をひそめた。

「王さまはなぜ服を着ているのか」

「どうして裸で泥をつけていないのだ?」

「狂っておられるのではないか」

ついには

此非小事。

これ小事にあらず。

「これはゆゆしき問題であるぞ」

「こんな王のもとでは国は治まらぬ」

と言い出す者が出て、群臣たちには不穏の気が満ち満ちた。

これを見て、王さまはひとたび大きなため息をつき、言った。

「みなのもの、みなの者が正常であるとしたら、わしは病気なのじゃ。しかし、

我有良薬、能愈此病。諸人小停、待我服薬。

我に良薬有りてよくこの病を癒す。諸人小停して我が服薬するを待て。

わしはこの病を治すいい薬を手に入れた。みなのもの、わしはその薬を服用してくるので、少し待ってくれ」

そして、王さまは宮中に入ると、蓋をしていなかった井戸の水を掬って飲んだ。

「ぶっぴっぴー!」

たちまち王さまは発狂し、

脱所着服、以泥塗面、須臾還出。

着るところの服を脱ぎ、泥を以て面に塗り、須臾にして還り出づ。

着ていた服を脱ぎすてて素っ裸になり、顔に泥を塗りたくって、しばらくして群臣たちの前に現れた。

そして、ニヤニヤとした。

一切群臣見皆大喜、謂法応爾。不自知狂。

一切群臣見てみな大いに喜び、謂う、法の応ずるのみ、と。自ら狂うを知らず。

群臣らはみな、この王さまの姿を見て歓喜して、言う、

「王さまは正常にお戻りになられた」

と。自分たちが狂っていることには気づかなかったのである。

―――その後、この国がどうなってしまったのか。遠い外国のことでもあり、詳らかではない。

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後秦・鳩摩羅什訳「雑譬喩経」より。

あれ? これどこの国の話なの? もしかしてゲンダイの・・・。

 

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