平成28年1月20日(水)  目次へ  前回に戻る

「クマだと何がいけないのだおー?」「きゅう」

まだ二日もある。猛獣でも現れて職場を無茶苦茶にしてくれないかなあ、などとまぼろしをみたりする。

・・・・・・・・・・・・・・

漢の昭帝(在位前87〜前74)の時、昌邑王・劉賀さまが王宮の中で、あるとき突然、

「だれだ?」

と呼ばわった。

側近たちは驚いて

「どうなされましたか?」

とお側に寄りますと、王が言うには、

聞人声曰熊。

人の声の「熊なり」と曰うを聞けり。

「今、誰かが「クマだ!」と言ったのが聴こえたのだ」

「はあ?」

側近たちは聞いていないので首をひねったが、王は、

「あ!」

と前方の虚空を見つめて叫んだ。

視而見大熊。

視るに、大熊を見たり。

「よく見てみろ、でかいクマが見えるぞ!」

そして一目散に王宮の奥の方に逃げ出してしまった。

「はあ?」

左右莫見。

左右見るなし。

側近たちには何も見えない。

そこで心配して博士の龔遂に相談した。

龔遂曰く、

熊野獣而来入宮室、王独見之。此天戒大王。恐宮室将空。危亡象也。

熊は野獣にして来たりて宮室に入り、王ひとりこれを見る。これ天の大王を戒むるなり。恐るらくは宮室まさに空しからん。危亡の象なり。

「クマは山野のケモノにござります。それが王宮深くまで入り込んだ、と。しかもそれをご覧になったのは王さまおひとり、と。これは・・・アレでございますな、天が大王さまに警告を発しているのでございます。おそらく王宮はいずれ虚しくなってしまいましょう。危険な滅亡のきざしにございますぞ!」

しかし

「はあ? なにを言っているのか」

王不改悟、後卒失国。

王は改悟せず、後ついに国を失えり。

王は心を改めることはなく、やがて昌邑国はお取りつぶしになったのであった。

・・・・・・・・・・・・

唐・陸勲集「集異志」巻三より。まぼろしを見ると、滅ぶのですなあ。

今日は岡本全勝さんを含む昔の仲間との飲み会あり。もう20年近く以前なので、20世紀の同僚のみなさんです。月日が経つと何もかも懐かしくなってまいります。そのころ見ていた夢まぼろしさえも。

 

次へ