「クマだと何がいけないのだおー?」「きゅう」
まだ二日もある。猛獣でも現れて職場を無茶苦茶にしてくれないかなあ、などとまぼろしをみたりする。
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漢の昭帝(在位前87〜前74)の時、昌邑王・劉賀さまが王宮の中で、あるとき突然、
「だれだ?」
と呼ばわった。
側近たちは驚いて
「どうなされましたか?」
とお側に寄りますと、王が言うには、
聞人声曰熊。
人の声の「熊なり」と曰うを聞けり。
「今、誰かが「クマだ!」と言ったのが聴こえたのだ」
「はあ?」
側近たちは聞いていないので首をひねったが、王は、
「あ!」
と前方の虚空を見つめて叫んだ。
視而見大熊。
視るに、大熊を見たり。
「よく見てみろ、でかいクマが見えるぞ!」
そして一目散に王宮の奥の方に逃げ出してしまった。
「はあ?」
左右莫見。
左右見るなし。
側近たちには何も見えない。
そこで心配して博士の龔遂に相談した。
龔遂曰く、
熊野獣而来入宮室、王独見之。此天戒大王。恐宮室将空。危亡象也。
熊は野獣にして来たりて宮室に入り、王ひとりこれを見る。これ天の大王を戒むるなり。恐るらくは宮室まさに空しからん。危亡の象なり。
「クマは山野のケモノにござります。それが王宮深くまで入り込んだ、と。しかもそれをご覧になったのは王さまおひとり、と。これは・・・アレでございますな、天が大王さまに警告を発しているのでございます。おそらく王宮はいずれ虚しくなってしまいましょう。危険な滅亡のきざしにございますぞ!」
しかし
「はあ? なにを言っているのか」
王不改悟、後卒失国。
王は改悟せず、後ついに国を失えり。
王は心を改めることはなく、やがて昌邑国はお取りつぶしになったのであった。
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唐・陸勲集「集異志」巻三より。まぼろしを見ると、滅ぶのですなあ。
今日は岡本全勝さんを含む昔の仲間との飲み会あり。もう20年近く以前なので、20世紀の同僚のみなさんです。月日が経つと何もかも懐かしくなってまいります。そのころ見ていた夢まぼろしさえも。