平成28年1月8日(金)  目次へ  前回に戻る

逆にどんなにうれしいときも、感情表現は抑制しよう。

週末です。職場に行かせた肝冷斎泥人形もニヤニヤしながら帰ってきました。少し感情を持ってきたようです。

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戦国、楚の宣王(在位前369〜前340)の時代のことでございます。

賢者・昭奚恤(しょうけいじゅつ)に、ある食客が問うた。

郢人某氏之宅、臣願之。

郢のひと某氏の宅、臣、これを願う。

「郢の住民にナニガシという者がおりますが、彼の家をわたしに払い下げ願いませんでしょうか」

郢(えい)は楚の都。この某氏は、このとき罪に問われ、裁判になって既に三年経過していた。この裁判は昭奚恤のところに持ち込まれていて、もし有罪となれば家宅は公けに没収されるので、食客はその家が没収されたら自分に払い下げてほしい、と頼んだのである。

昭奚恤は言うた。

郢人某氏不当服罪。故其宅不可得。

郢ひと某氏、服罪すべからず。故にその宅、得べからず。

「郢の住民ナニガシは有罪になることは無いだろう。だから、彼の家をあなたに払い下げることはできないと思う」

「なるほど。わかりましたあ」

客辞。

客、辞す。

食客は、引き下がろうとした。

すると、

「お待ちなさい」

昭奚恤はそれを呼び止めた。

奚恤得事公。公何為以故予奚恤。

奚恤、公に事(つか)うるを得たり。公、何為(なんすれ)ばぞ故(こ)を以て奚恤に与うるや。

「わたくし奚恤は、あなたのお世話を誠実に行ってきたと思っております。あなたはどうして、わたくし奚恤に「いつわり」をなされたのか」

「は? はあ?」

食客は慌てて答えた、

非用故也。

故を用うるにはあらざるなり。

「い、いつわりを為してなどは、お、おりませぬぞ」

昭奚恤はかぶりを振った。

請而不得有説色。非故如何也。

請いて得ずして説(よろこ)べる色有り。故にあらずして如何ぞや。

「あなたはわたしに請求をなさって、わたしはそれをお断りしたのに、あなたはどういうわけかうれしそうになさった。何かの「いつわり」が無いはずはありますまい」

「むむう」

ここにおいて、客はその明察に服しまして実際のところを白状した。

客は、罪に問われて裁判が長引いている郢人・某氏から相談を受け、

請其宅、以卜其罪。

その宅を請いて以てその罪を卜す。

その家の払い下げを求めてみて、昭奚恤が某氏を有罪にするつもりなのかどうか、知ろうとしたのである。

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「戦国策」巻五「楚策一」より。

この食客は、よろこびのような感情を持ったから失敗してしまいました。肝冷斎人形も感情を持ち過ぎないうちになんとかせねば、な・・・。

ところで、この昭奚恤という人、実は今の我が国でも、ものすごい有名な人物なんです。

同じ「戦国策」の記述(21.3.1によれば、魏からやってきた江乙という説客(実際は魏の間者(スパイ))が、宣王の賢者・昭奚恤への信頼を損なわせ、引いては楚の国力を弱めるために、「虎の威を仮るキツネ」に喩えて彼を讒言した。つまり、今も我が国屈指の使用頻度を誇る故事成語「虎の威を仮るキツネ」「キツネ」がこのひとなのです。

ちなみに「虎の威を借りてるキツネ」が悪だと誤解している人がいるかも知れませんが、そうではなくて「虎の威を借りてるキツネ」と「讒言しているやつ」が本当の悪なのだ、というのがこの故事の全体像です。現代、江乙はもしかしたらマスメディアの姿で主権者にささやいているカモ・・・。

 

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