イカ・タコも命無き泥人形よりはマシ?
今日もサボっていたいので、泥をこねて作った肝冷斎人形に生命を吹き込んで、会社に行かせた。
人形は無表情に出て行ったが、夜、シゴトがツラかったのであろう、ほんとうにツラそうな顔で帰ってきた。そのツラさ、よくわかる。しかし、かわいそうだが、明日もわたしがサボるためには彼にシゴトに行ってもらわねばならん。
いずれこいつもツラい目にあっているうちに、魂を持ち出して他人の命令を聞かなくなってくるカモ知れませんね。今のわたしのように・・・。
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宋のころ、肇慶(広東・高要)の町でのこと。
ある兵卒が夜回りをしていると、
毎夜半見城上亭中火光、往視之。
毎夜半、城上の亭中に火光を見、往きてこれを視る。
毎晩、真夜中ごろ城壁の上の小屋のあたりに火がともっているのが見えるので、ある晩そこまで行ってみることにした。
そこで不思議な情景を目にした。
十余人及小児数輩聚博。
十余人及び小児数輩、聚まりて博す。
十余人の大人と子供数人が集まっていて、博奕をしていたのである。
そして不気味なことに、彼らは無言でバクチを続けているのであった。
(こんな場所で? ほんとうにこいつらはニンゲンか?)
と疑問に思ったものの、この兵卒は変に胆の座った男であった。
戯伸手乞銭。
戯れに手を伸ばして銭を乞う。
半ばおふざけに、手を伸ばして「だんながた、お恵みくだされ」と乞食のマネをしてみた。
男たちは表情の乏しい顔を兵卒の方に向けた。そして、特にコトバを発するでもなく、無表情なままで手にしていた金をくれた。
「へへ、おありがとうござい・・・」
ともらい集めると、なんと三千銭にもなった。
大儲けである。
男は変に知恵も回ったので、
不以語人、次夕又如是。
以て人に語らず、次夕またかくの如し。
誰にもこのことを話さずにおいて、次の当直の夜にも同じところに行ってみたところ、同じように銭を恵んでもらった。
(なんだか不気味だが、これはカネになる)
それからはこの兵卒は、できるだけ当直をこなすようにし、当直の晩の深夜には必ずそこで物乞いをしたので、
所獲益富、踰両月矣。
獲るところますます富み、両月を踰ゆ。
どんどんお金がたまり、そんなふうにして二か月以上が経過した。
―――さて、当時、軍の倉庫は半年ごとに検査する決まりであった。
決まりどおりの期日に太守の鄭安恭が検査をすると、
軍資庫失銭千余緡併銀数百両。
軍資庫、銭千余緡あわせて銀数百両を失う。
軍の倉庫から、千枚通しのさし銭千本以上と、銀貨数百枚が無くなっているのが発見された。
「ゆゆしきことである」
と調査を始めた。すると、すぐに
或告云、此卒妄費、又衣服鮮明。可疑也。
あるひと告げて云う、「この卒、妄りに費やし、また衣服鮮明なり。疑うべし」と。
密告があった。
「兵卒ナニガシは、最近無駄遣いが多く、また着ているものが突然美々しくなりました。疑うべきでありましょう」
と。
そこで兵卒を捕らえて詰問すると、隠すこともできず、
具以実言。
つぶさに実を以て言う。
ほんとうのことを具体的に白状した。
しかし、
「わたしが謎のオトコたちからもらったのは銭だけで、銀貨についてはまったく知り及びません」
と言うのであった。
兵卒の現在所持する金、これまで使ったと思われる金額、どう足しあげても、確かに銀貨の分には遠く及ばない。
鄭太守、城内を詳しく調べなおし、
「なるほど」
とうなずいた。
必土偶為姦。
必ずや土偶姦を為すならん。
「この城内には土製の人形が多く祀られている。どうもあれらが怪しい」
ただちに
使部人往、遍索諸廟。
部人をして往きてあまねく諸廟を索めしむ。
部下の者たちを派遣して、城内のお廟から土人形を集めさせた。
これらを捕らえた兵卒に見せたところ、
有土偶、状貌類所見者。
土偶の、状貌の見るところに類する有り。
出会った男やコドモたちとそっくりの土人形がいくつもあった。
鄭太守命じて、
砕之、腹中得銀一笏。剖之皆然。
これを砕くに、腹中に銀一笏を得たり。これを剖くにみな然り。
土人形を砕かせてみたところ、その腹の中から一束の銀貨が出てきた。集めた土人形を壊したところ、どれもこれもそうであった。
これらの銀と
合此卒用過之数、更無少差。
この卒の用い過ぐるの数を合するに、さらに少差無し。
この兵卒が使った額とを合算すると、ちょうど倉庫から無くなった額と同じになった。
これ以降、怪しいことは起こっていない。
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のだそうです。一件落着。宋・洪容斎「夷堅志」より。
泥人形も賭け事を楽しむなど、ニンゲン的なところがあるのですなあ。また、兵卒は短い間ですがいい夢が見れてよかった。WIN−WINというべきである。