こいつはいかがですお?
しごと関係、失敗中。もうダメだ。悩み尽きない。
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さて、むかしむかし。艾子(ガイ先生)というひとがおりました。(戦国の時代、斉の国のひとだという設定です。)
この艾先生のある晩の夢に、豪華な衣服をまとった立派な男性が現れた。
この男性は、艾先生に向ってうやうやしく一礼をすると、
吾東海竜王也。
吾、東海竜王なり。
「わしは、東海の竜王でござる」
と名乗った。
実は、この竜王には悩み事があるのだそうです。
「わしにはムスメがおりましてな、もういい年頃なのだが、どこにヨメにやろうかと悩んでいるのだ」
というのである。
艾先生は言った、
「竜王のお嬢さまならいくらでももらい手はございましょう。どこかの川なり湖なりの竜に嫁入りさせれば如何ですかな」
「それが・・・
其性竜戻。若吾女更与竜為匹、必無安諧。欲求耐事而易制者、不可得。
その性、竜戻なり。もし吾が女さらに竜と匹たれば、必ずや安諧無し。事に耐え制し易き者を欲求するも得べからざるなり。
性格が竜らしくわがままなのだ。もしうちのムスメが同じ竜と結婚すれば、いさかいあって安らかにたのしく生きていくことなどできそうにない。そこで、我慢強くて言いなりになるやつを探しているのだが、なかなかそんなのがいないのだ。
おまえは知恵者だというから訪ねてきたのである。どうかしばらく時間を割いて、わしの悩みに答えてほしい」
「なるほど」
艾先生は腕組みして、言った。
求婚、亦須水族。
婚を求むるには、また水族をもちいんか。
「結婚相手は、やはり水中に棲む生物の中から選ばねばなりませぬかな?」
王曰く、
然。
然り。
「そのとおり」
艾先生曰く、
「うーん・・・
若取魚、彼多貪餌、為釣者獲之。又無手足。
もし魚を取らば、彼多く餌を貪り、釣者のこれを獲るところとなる。また手足無し。
魚類はいかがでしょうか。・・・いや、しかし、やつらはたいていエサにひっかかって釣り人に釣り上げられてしまいますな(誘惑に弱い)。それに、やつらは手足が無いから自ら働こうとしませぬ。
若取黿鼉、其状醜悪。
もし黿(げん)鼉(だ)を取らば、その状、醜悪なり。
ウミガメやヨウスコウワニはいかがでしょうか。・・・いや、しかし、やつらはあまりに外見が醜いからなあ。
そうじゃ。
唯蚌可也。
ただ蚌(ぼう)のみ可なり。
ドブガイしかおりますまい。あれならよかろう。
ドブガイはいかがですかな?」
「ドブガイか?」
王曰く、
無乃太卑乎。
すなわちはなはだ卑たる無きか。
「ちょっとあんまりに身分が低すぎないか」
「いやいや」
艾先生曰く、
蚌有三徳。一無肚腸。二割之無血。三頭上帯得不潔。是所以為王婿也。
蚌に三徳有り。一に肚腸無し。二にこれを割くも血無し。三に頭上に不潔を帯び得たり。これ、王の婿たるゆえんなり。
「ドブガイには三つの長所がございます。
一つ目は、はらわたが無い。(だから、何も食べなくていいし、そこに蓄える「こころざし」も「はかりごと」も持つことはございません。)
二つ目は、切り裂いても血が出ない。(だから、ニンゲンらしい扱いをする必要はございませんし、あたたかい心を持つこともございません。)
三つ目は、下ではなく頭の上の方に排泄物がたまっております。(だから、汚れたものを崇め、頭を低くしていることは得意でございます。)
これこそ、王のムコとなるにふさわしくはございますまいか」
「なるほど」
王、うなずいて、曰く、
善。
善し。
「すばらしい」
と。
そこで目が覚めた―――。
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宋・蘇東坡「艾子雑説」より。えらいひとにも悩みがいろいろあるのですなあ。