社会はきびちいなー。
金曜日。明日明後日は休日とはいえ、そのあとは厳しい社会の平日のきついのが五日も続く。
「もうイヤだ、ぎぎぎぎ・・・・」
と思い詰めたら
「ぼよよ〜ん」
と煙に包まれまして、気が付いたらおいらはまた童子になってちまっていまちた。オトナの世界のあまりの恐怖にコドモになってちまったのでちゅな。
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さて、コドモ向きのどうぶつの出てくるおとぎ話をいたちまちょー。
黔無驢。
黔に驢無し。
黔の地方にはもともとロバがいなかった。
この「黔」(きん)は、四川の奥、今の貴州地方(当時は大辺境地です)一帯を指す。
有好事者船載以入。
好事者の船載以て入る有るなり。
とあるものずきな人が、船に乗せてはじめてロバをこの地に連れてきたのであった。
うわーい、かわいいロバちゃんのお話でちゅよー。
至則無可用、放之山下。
至ればすなわち用うるべき無く、これを山下に放つ。
連れてきたのですが、何の役にも立たないので、結局ある山のふもとに放ち飼いにしていた。
さて、このあたりにはトラがいた。
虎見之、龐然大物也、以為神。
虎これを見るに、龐然(ほうぜん)たる大物なり、以て神ならんとす。
トラはロバを見た。これまでに見たこともなり、大型の動物である。トラは「この動物は、神さまかもしれんぞ」と思った。
そこではじめのうちは
蔽林間窺之、稍出近之。
林間に蔽(かく)れてこれを窺い、やや出でてこれに近づく。
林の間からそっと隠れてのぞいているばかりで、少し経ってからそれ(ロバ)に近づいてみた。
すると、
驢一鳴。虎大駭遠遁、以為且噬己也、甚恐。
驢一鳴す。虎大いに駭ろき、遠く遁(に)げて、おもえらく「まさに己れを噬まんとすなり」とし、甚だ恐る。
突然、ロバがいなないた。
「うひゃあ!」
聴いたこともない声である。トラは大いに驚き、遠くまで遁走した。思うに、「わ、わしを喰らおうとしたのではないか」と。たいへん恐ろしがった。
その後、しばらく恐れて近づかなかったが、しかし、ときおりにその姿を目にするに、とくだん自分を狙っているわけではなさそうである。そこでだんだんとまた近づいてみた。その鳴き声も何度か聞いたので、それは何かを喰らおうとしているときの声ではないこともわかってきた。
ついに
近出前後。
前後に近出す。
その近くをうろうろしてみた。
さらに馴れるとなれなれしく傍に寄ってみたり、行く手を横切ってみたりした。
ロバの方がだんだんいらいらしてきて、ついにある日、
「むひひ〜ん」
驢不勝怒、蹄之。
驢、怒りにたえず、これを蹄す。
ロバはとうとうイライラに耐えられなくなって、トラを脚で蹴った。
「うひゃ?」
トラは一瞬びくりとしたが、やがて、
「わははは」
と大いに笑いだしました。
技止此耳。
技、これに止まるのみ。
「こいつのやれることはこんなことしかないのか」
そして、(以下、残虐のためコドモは読まないでくだちゃーい!)
跳踉大噉、断其喉、尽其肉、乃去。
跳踉して大噉し、その喉を断ちてその肉を尽くし、すなわち去れり。
とびあがり、大いに口を開いて噛みつくと、まずロバの喉を咬み切って殺し、そのまだ温かい肉を食べつくすと、どこかに去って行った・・・。
あーあ、いいお友だちになるお話かなあ、と思ったのになあ。やっぱりオトナの世界は厳しいのでちゅね。
さて。
形之龐也類有徳、声之宏也類有能。向不出其技、虎雖猛、疑畏、卒不敢取。今若是焉、悲夫。
形の龐なるや有徳に類し、声の宏なるや有能に類す。向(さき)にその技を出ださざれば、虎は猛なりといえども疑畏し、ついにあえて取らず。いまかくのごとし。悲しいかな。
姿がでかいのはニンゲンであれば徳のあるひとのように見えたのに譬えられるのではないだろうか。声が大きいのはニンゲンであれば能力あるひとのように聞こえたのに譬えられるのではないだろうか。そのやれることを明らかにしないうちは、トラのような気の強いやつでも疑い恐れてなかなか手を出さなかったのである。しかし(やれることのバレてしまった)今となっては、こんなことになってしまったのだ。ああ、悲しいことではないか。
と筆者のおじさんが言ってますが、どういうことの比喩なのか、人生経験あまり無いのでわからないでちゅう。もしかして、VWのこと?
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唐・柳宗元「三戒」より「黔之驢」(黔のロバ)(「柳河東集」巻十九所収)。若くして過激な改革運動に携わったためにずっと辺境の地に追いやられていた柳宗元は、おそらくすごく時間が余っていたので(もちろん社会への義憤や人生への疑問といった原動因もあるのでしょうけど)こういうお話をたくさん書いております。この「黔のロバ」を含むシリーズは「三戒」とありますように、こういう「寓言」があと二つ(「臨江のノロジカ」「永の某氏のネズミ」)あって、セットになっています。
みんな、読みたいかなあ? でもコドモ用の楽しいお話ではなくてオトナ用の厳しいやつなので、涙なくしては読めないのでちゅよ。(TT)
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さればよとみるみる人のおちぞ入るおおくの穴の世にはありける 西行法師
(あれは・・・とみているうちに)案の定、見る見るうちに人が落ち込んでいく危険な穴が、たくさんある世の中なのだなあ。