お伴のドクロちゃん。
今日は追い詰められ、ほぼ首切られ。物理的にはつながっているが精神的には崩壊中でほぼドクロちゃんになりつつある。
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では、ドクロちゃんのうたを一曲。
・・・の前に、「漢書」巻九十四下「匈奴伝下」を読んでください。
曰く、宣帝(在位前73〜前49)のころ、呼韓邪単于(こかんや・ぜんう。単于は匈奴の「王」)が漢の車騎都尉・韓昌、光禄大夫・張猛と和睦した際、
以経路刀金留犂撓酒、以老上単于所破月氏王頭為飲器者、共飲血盟。
経路刀・金留犂を以て酒を撓(ま)ぜ、老上単于の破るところの月氏王の頭を飲器と為せる者を以て、ともに血を飲みて盟(ちか)えり。
「経路刀」は匈奴の宝刀の名。「金留犂」の「留犂」(りゅうり)は「飯匙なり」ということですから、黄金で作った「しゃもじ」。
宝刀・経路刀と(宝物の)黄金のしゃもじで酒を攪拌し、かつて冒頓大単于の時代、老上単于が破った月氏の王のドクロを盃にしたものに犠牲獣の血とともに注いで、これを飲み交わして同盟を誓い合った。
という。
匈奴の王権と深く結びついた宝物が、経路刀と金留犂と月氏王頭杯であったのである。・・・
・・・これを踏まえまして、元・顧亮の「月氏王頭歌」を聞いてくだされ。
月氏肉、砕如雪、 月氏の肉は砕かるること雪のごときも、
月氏顱、勁如鉄。 月氏の顱(ろ)は勁(つよ)きこと鉄の如し。
月氏王の肉は、雪のように融けて消えたが、
月氏王の頭蓋骨は、鉄のように剛強なのだ。
快剣一斫天柱折、 快剣ひとたび斫りて天柱折れ、
留取胡盧飲生血。 胡盧を留取して生血を飲む。
すぱすぱ切れるすばらしい剣(宝刀「経路刀」なのであろう)で西北にあるという天を支える柱を切り倒したとき、
いっしょに胡人(月氏王)の頭蓋骨が取れたので、それを遺しておいて、誓いの生き血を飲むのに使うのだ。
冒頓老魅呼月精、 冒頓(ぼくとつ)の老魅、月精を呼び、
夜酌葡萄隴月明。 夜に葡萄を酌めば隴月明らかなり。
匈奴の大王であった冒頓単于の古い霊魂が、月氏の精霊を呼び出して、
夜この杯に葡萄の酒を注げば、西域に続く隴(ろう)の月があかあかと地を照らす。
鬼妻蹋地号我天、 鬼妻は地を蹋(ふ)みて「我が天」と号し、
可汗天霊哮號声嘶酸。 可汗(かがん)の天霊、哮號して声は嘶酸(しさん)なり。
死霊となった月氏王の妻が大地を足で踏み鳴らして、「わたしの大切なひと!」とさけび出し、
天をさまよう可汗(かがん。突厥の「王」の称号。ここでは月氏王のことをいうようである)の魂は泣き叫ぶ―――その声はなんと悲惨なものであることか。
於乎顱兮顱兮爾勿悲。 於乎(ああ)、顱よ、顱よ、なんじ悲しむなかれ。
我今酌爾金留犂。 我、今なんじに酌まん、金留犂。
ああ、頭蓋骨よ、頭蓋骨よ、おまえさん、悲しまないでくれ。
われらはいま、おまえに金留犂の大さじを使って酒を注いでやるのだから。
ここまでは、上記の後漢の韓昌、張猛のことを歌った。
さて、このドクロがめぐりめぐって、今はとある地方官の所有に帰したということだ。しかももはや盃ではなく、小便用の便器に使われているという。
黔州都督有血頂、 黔州(きんしゅう)の都督、血頂有り、
精魂夜夜溺中啼。 精魂夜々、溺中に啼く。
四川・黔州の都督どのは血のにじんだドクロをお持ちで、
精霊の魂は毎晩毎晩、小便まみれで泣き声をあげている。
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「すばらしい!」
と元代には評価されていたし、わたしもロオマンスチークですばらしいと思うのですが、ナウなみなさま的にはいかがなものでしょうかな。