今日もワニのように恐ろしい実社会でやられてきた。危険な場所からは早く逃げ出さないと・・・
毎日毎日、いろんな方の逆鱗に触れる日々です。ちなみに「逆鱗」というのは龍のアゴにあるウロコで、普段はやさしい龍だが、このウロコに触れるとすさまじく怒るのである、と「韓非子」に書いてあった。
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唐の末から五代の混乱期、長江のほとりに住んでいた陳崇実というひとは「多記」(いろんなことを記憶している、「物知り」)であった。
あるとき隣人が漁に出かけ、帰ってきて、
「ああ、なんということをしてしまったのか! 龍を網で採ってしまったんじゃ!」
と嘆いているのを聞いた。
陳崇実、
「それは本当に龍だったのかのう?」
と訊ねた。
隣人は言う、「それは長さ三メートル以上もある爬虫類で、
自罟間而飛去。
罟の間より飛び去れり。
網の上から飛び上がって、逃げて行ってしまったのじゃ。
空を飛ぶのだから、龍で無いわけがあるまい」
と。
そして、
謂其子曰、凡人犯龍凶。吾其終乎。欲召日者筮。
その子に謂いて曰く、「およそ人の龍を犯すは凶なり。吾それ終わらんか」と。日者を召して筮せんと欲す。
隣人はその子に「龍に手を出したひとはまがまがしい罰を受けるという。わしはもう終わりだ」と言い、占い師を呼んでこのあとどうなるか占わせようとした。
陳崇実は笑って言った、
非龍、鼉也。夫鼉有長丈余者、亦能冲飛三二里。然不能乗風雲上天。君漁鼉、非龍也。
龍にあらず、鼉(ダ)なり。それ鼉には長さ丈余なる者有り、またよく三二里を冲飛す。しかるに風雲に乗じて天に上ることはあたわず。君、鼉を漁するなり、龍にあらざるなり。
「それは龍ではないぞよ。鼉(だ)、すなわちヨウスコウワニじゃ。ヨウスコウワニには体長が2〜3メートルに及ぶものあるし、また二里〜三里(一里=500メートルぐらい)空中を飛ぶこともできる。しかし、風や雲に乗り、天にまで昇っていくわけではない。おまえさんが捕ったのは、ヨウスコウワニで、龍ではないぞ」
しかるに、
隣人不誠其言。
隣人、その言を誠ならずとす。
隣人は陳のコトバをほんとにしなかった。
「わしを慰めるために言ってくれているのはありがたいが、わしは確かに龍に手を出してしまったのじゃ。もう覚悟ができている」
しかし隣人はその後もずっと元気で、かつある日、
又網得一枚。
また一枚を網し得たり。
またもう一匹、同じやつを網で捕らえてしまった。
「うひゃあ、またこいつか」
急投之、乃鼉也。
急ぎてこれを投ずるに、すなわち鼉なり。
大慌てで網から外して放り出したが、今回は周りで見ていた人がいて、彼らはみな「ヨウスコウワニだ」と視認した。
そこで、陳崇実はほんとうに物知りだ、ということになったのである。
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五代・陳纂「葆光録」巻二より。
陳崇実の冷静な近代的科学力の勝利! ・・・に思えるのですが、「ヨウスコウワニは1〜1.5キロメートルぐらい飛ぶ」というところがすごく眉唾である。本当にワニでさえ飛べるのなら、おいらも飛んで逃げて行きたい、あの空へ。