あるいは躍りて淵に在り――。大涌谷のあたりでは、もくもく湧いている?
今週も疲れた。打ちのめされた。どうもわたしなどの力ではやっていける職場ではないようなのだ・・・。
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えーと、ですね。わたくし外史氏(非正統的な歴史家)が申し上げますに、わたしの聞いたところでは、
早雲嘗召儒士、説黄石公三略。
早雲かつて儒士を召して、黄石公が「三略」を説かしむ。
北條早雲は、あるとき漢学者を連れて来て、(漢・高祖の謀臣・張良に戦略学を教えたという)黄石公の著した兵書「三略」の講義をさせたことがあった。
学者は「こほん」と咳をしまして、話し始めたのだそうでございます。
「えー、「三略」の本を開いていただきますと、
其首有言、曰主将之法務攬英雄之心。
その首に言有り、曰く「主将の法は、務めて英雄の心を攬(と)るなり」と。
最初にこのように書いてございます。
最高司令官の職務は、とにかく才能や意欲のあるすぐれた人物の気持ちを収攬することである。
と・・・」
と説明を受けたところで、早雲はさえぎって言った。
止矣。
「止めよ」
「もうよい」
「は?」
「もうよい、と言うおるのじゃ」
「あ、いや、これはまだはじまったところでして、これはすごい重要なことでして・・・」
吾既得之。不復使説。
「吾すでにこれを得たり」と。また説かしめず。
「そのことは、わしにはもうよくわかっている、と言うておるのだ!」
そして、それ以上は説明をさせなかった。
―――この書に書いてあるのはすべて、(わしにとっては)当たり前のことであるようだ。これ以上時間をかけて学ぶ必要はない。
と認識したからだ。
嗚呼、有以夫。
嗚呼、以てすること有るかな。
ああ。理由のあることであるなあ。
其以流寓漂泊之人、據有八州以開五世之基也。
それ、流寓・漂泊の人を以て、據りて八州を有し、以て五世の基を開けるなり。
なんと、京都から漂泊してきて今川氏に宿を借りる身分からはじめて、関東の八国を領有する五世代にわたる政権の、基盤を築いたひとなのであるから。
以下、論評が続きます。
足利氏が天下の権を失ったのは、まさに英雄たちの心を収攬しきれなかったからである。このため国内には争いが続くようになった。
早雲は伊勢新九郎と名乗っていたころから、
早有見於此。
つとにここにおいて見る有り。
早くもこの点を認識しておったのだ。
だから、
仗一剣之任、周流天下以求用武之地。
一剣の任に仗りて、天下を周流し、以て用武の地を求む。
ひとふりの刀をたよりにして天下を流れ歩き、自らの武力を振るうべき土地、収攬すべき人心のある地を探したのである。
そうして関東という地を捜しだした。
一得其地、雲蒸龍変莫之或拒。
ひとたびその地を得れば、雲蒸し龍変じてこれをあるいは拒(ふせ)ぐなし。
自らの力を発揮するべき地を発見してからは、雲がもくもくと湧きだし、これが龍に変化して飛び上がるように、誰にもそれを邪魔立てすることはできなかったのである。
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以下、まだまだいろいろ続きます。
が、とりあえずここまでの記述で、
○自分の力を揮うべき地を探し出せば誰にも邪魔立てすることはできない。
ということがわかりました。ようし、明日から探しに行くぞ。ちなみに引用は頼山陽「日本外史」巻十・後北条氏論評より。