ゆくへ定めぬ波枕
一週間終了。今週は木偶人形に会社に行かせた。木偶は特に後半かなりツラかったようだが、わしは楽チン。来週もツラいらしいので木偶を行かせ、わしは楽して、ついでにどこかに遊びに行きたいね。
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あるひと、
夜泊舟于富春間。
夜、舟を富春の間に泊す。
船旅の途中のある晩、浙江・富春のあたりの船着き場に碇泊した。
この夜は
月色淡然。
月色淡然たり。
月の光のあわく耀く夜であった。
舟の上で月を見上げていると、いつの間にそこにいたのか、
見一人於沙際。
一人を沙際に見る。
川原にひとが立っているのである。
このひと、吟じていう、
移江三十年、 江に移りて三十年、
潮打形骸朽、 潮打して形骸朽ち、
家人都不知、 家人すべて知らず、
何処奠杯酒。 いずこにか杯酒を奠せん。
この川のほとりに身を置いて三十年。
水の高低に洗われて身体は朽ち果てた。
家族らもわしの居場所を知らない。
いったいどこに酒を捧げればいいのかもわからない。
「なんと」
舟上のひと、この詩を聞いて驚いた。
「これは、生きたひとの吟じるうたではございますまい。
君是誰、可示姓名否。
君はこれ誰ぞや、姓名を示すべきや否や。
あなたはいったい誰ですか。姓名をお教えいただくわけにはいきませんか?」
その人答えていう、
莫我問姓名、 我に姓名を問うなかれ、
向君言亦空、 君に向かいて言うもまた空し。
潮生沙骨冷、 潮生じて沙骨冷え、
魂魄悲秋風。 魂魄は秋風に悲しむ。
わしに姓名を聞かないでくれ、
おまえさんに言うたとて何の役に立とうか。
水にあらわれて砂浜の骨は冷え切り、
魂魄は秋の風の中で悲しむばかり。
「やはり・・・」
舟上のひと、
上岸揖之、遂失所在。
岸に上りてこれに揖するも、遂に所在を失えり。
舟を下りて岸に上り、手を胸の前で合わせて左右に振る礼を行って敬愛を示したが、そのときにはもうその姿は消えてしまっていた。
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五代・陳纂「葆光録」巻二より。
もっと楽したいから、来週は木偶以外に土偶も行かせるか。