「サカナ料理から選ぶでワン」
昨日も今日も雨。しかも寒い。おまけにシゴトのことで悩み深い。コドモになって旅の夢でも見て、泣きながら寝るぜ。
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もう二百年ぐらい前になりますが、清の時代、おいらが浙江・銭塘からの舟に乗りまして旅したときのことでっちゅ。
日が暮れて、富陽の町を過ぎて二十里(10キロ余)のところで、この舟は停泊いたちたのでございまちゅ。
その夜、
更深忽有小舟吹螺而来、摧颺水面而去。
更深に忽ち小舟の螺を吹きて来たり、水面を摧颺して去ること有り。
真夜中ごろ、一艘の小舟が、ほら貝をぶうぶう吹き鳴らしながら突然現れまちた。この舟、まわりの水面をはげしく波打たせて去って行ったのでございまちた。
同舟の客たちはもう寝入っておりまちたが、ぶうぶうというほら貝の音に驚いて目を覚まし、
挙舟疑為暴客。
挙舟、暴客たらんと疑えり。
舟中のひとが、強盗船ではないかと疑って大騒ぎになったのでありまちゅ。
しかしおいらは、
月澄如鏡、且同舟人甚衆。
月澄みて鏡の如く、かつ同舟人はなはだ衆(おお)し。
月が鏡のように澄み切って空にかかっている晴れた夜で、こちらの舟にはずいぶんたくさんの人が乗っておりました。
だから、強盗船が来たところで何ができるものか、と安心して、「ぶうすか」と眠ったままだったのでございます。
さて、次の日の朝、
衆問舟子、夜来船吹螺者何意。
衆、舟子に問う、「夜来、舟の螺を吹くは何の意ぞや」と。
お客たちは船乗りに訊ねた。
「ゆうべ、ほら貝をぶうぶう吹きながらやってきた舟があったが、あれは何のつもりだったのかな?」
と。
船乗りたちは、にやにやしながら答えた。
是魚舟。魚喜螺声、聞声当躍出、受捕。吹螺特以致魚耳。
これ魚舟なり。魚は螺声を喜び、声を聞けばまさに躍出すべけらば、受捕す。螺を吹くは特に以て魚を致すためのみなり。
「あれは魚捕りの舟でっさ。魚はほら貝の音が大好きですから、その音を聞くと水面からぴょんぴょんと飛び上がって来ます。それを舟の上で待ち受けて捕らえる漁法があるんでっさ。ほら貝を吹いているのは、ただ魚を呼び出すだけのためなんですわな」
へー。
感心しました。
珍しい漁法もあるものなのだ。
魚がほら貝の音を好むというのもはじめて知りました。
そこで、おいらはこのことをここに記録しておくのである。
以識桐江人捕魚之法、且俾後来泊舟者聞螺、可無過恐也。
以て桐江の人の捕魚の法を識り、かつ、後来の泊舟する者をして、螺を聞きて過恐すること無かるべからしむるなり。
それによって浙江の桐江沿岸地方のひとの魚を獲る方法を知ることができるようにするとともに、後のち、ここに舟を碇泊させた人が、夜中にほら貝のぶうぶういう音を聞いても、必要以上に恐怖を覚えないように、しようと思うのでございまちゅ。
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コドモなのに後々のひとのために書き遺すなんて、えらいなあ。清・鄭仲夔「冷賞」巻六より。
おかげでわかりましたが、魚はほら貝の音が好きだったんですね。ふふふ、今度自分で確かめたことのように知ったかぶって言いふらして、まわりのやつらに物知りだと思わせてやるぜ。このHPはときどきこういう役に立つことが書いてあるから助かるなあ。