(←春になるとヘンなひとも出てきますよ)
今日はうらうらと春日照り、のどかな一日でございました。花見客の酔っぱらって寝ているのとかいてオモシロかった。
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唐の半ば過ぎ、崔戎、字・可大というひとがおられました。先祖に大いに功績あるひとがあって、以来代々政府高官を出す家柄のひとであったが、彼も中央や各地の節度使のもとで働き、多く善政を施して評価が高かった。
四川の政務に携わる両川宣慰使となり蛮族の叛乱を片付け、軍事税の廃止に成功し、
公私便之。
公私これを便とす。
おえらがたからも人民からも感謝された。
次いで中央に戻って給事郎中(官房参事官)を経て華州知事として令名あり。任期満ちて兗州団練観察使に移ることとなったとき、
将行、州人恋惜、遮道。
行かんとして、州人恋惜し、道を遮る。
いざ出発しようとすると、人民たちが彼を慕い、その去ることを惜しんで大挙して集まり、道を遮った。
「行かないでくだされ」
と号泣するのである。
「わしとて名残は惜しいが公命である。致し方ないのじゃ」
と馬にムチをあてよう、とすると、人民どもは知事を取り囲み、
至有解鞾断鐙者。
鞾(か)を解き、鐙(あぶみ)を断つ者有るに至れり。
かわぐつを脱がされ、馬のあぶみ(足受け)を引きちぎられてしまった。
しかし何とか出発したのであったが、とうとう片方の靴だけは戻らなかった。
この故事から、清廉な地方官の異動を任地の人民たちが惜しむことを「脱鞾挽留」(くつを脱がして引き留める)というのでございます。
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「旧唐書」巻162所収「崔戎伝」より。
さて、人民たちでございまちゅが、崔戎の異動後も彼の徳を慕い、時節ごとに集まっては脱がせた靴を祀って、
嗅鞾。
鞾を嗅ぐ。
交代でその靴の臭いを嗅いだ。
そうでちゅ。清の袁枚(→「子不語」を書いたひと)がいうに、
江南諸父老、相対心茫然、 江南の諸父老、相対して心茫然、
或欲嗅靴鼻、或欲拗馬鞭。 あるいは靴を嗅ぐの鼻を欲し、あるいは馬鞭を拗(よじ)らんとす。
江南の人民の長老たちは、お互い顔を見合わせてぼうぜんとし、
ある者は知事さまの靴を嗅ごうと追い回し、ある者は馬のムチを取り上げて捻じ曲げようとした。・・・
と。
おっさんの靴を嗅ぐなんて、ヘンタイでちゅね。纏足ムスメのなら花見酒に酔ったふりして嗅いじゃって当たり前でちゅけれども。