(♪泣きたい夜にひとりはいけない、あたしの側においで・・・なんて、誰も言ってくれないし。)
もうだめだ月曜日が来る・・・人格が・・・崩壊する・・・
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ぼーん!
崩壊いたちまちた〜。
人格崩壊しておいらコドモになっちゃったので、義務も責任も知識もありません。
「なんにも知らないコドモなのー、うっしっし〜」
と言って遊んでいたら、
「なんにも知らないコドモにはいろいろ教えてやらねばならんのう」
と、蘇東坡おじいちゃんが教えてくれまちゅ。
―――童子よ、よく覚えておきなさい。
薄薄酒勝茶湯、 薄薄の酒も茶湯にまさり、
粗粗布勝無裳、 粗粗の布も裳無きにまさり、
醜妻悪妾勝空房。 醜妻・悪妾も空房にまさる。
薄い薄い酒でもお茶やお湯よりは酔える、
粗い粗い布でも裳が無いよりはあたたかい。
ブス女房や根性悪の妾でも、ひとり寝するよりシアワセだ。
「え? ホントに?」
―――これも覚えておきなさい。
五更待漏靴満霜 五更に漏を待ちて靴に霜満つるは、
不如三伏日高睡足北窓涼。 三伏(さんぷく)に日高くして睡り、北窓の涼足るに如かず。
「五更」は夜明け前。むかしの役人は夜明け前に出勤した。時間は「漏」(水時計)が知らせてくれる。「三伏」(さんぷく)は真夏の時節。陶淵明は夏の日に「北窓」の日蔭で昼寝するのをこよなく愛し、原始時代の幸福なニンゲンのようだ、と称賛した。
夜明け前を水時計が知らせるのを待って、(真冬の)霜でいっぱいになった革靴に足を突っ込んで出勤する(ような生活)より、
真夏に日が高くなるまで、北側の窓の下の十分に涼しいところでごろごろ眠っている(ような生活の)方が、ずっとシアワセである。
「そりゃそうだ。なのにオトナは明日また出勤ちゅる?」
―――可笑しいのう。また言う、
珠襦玉匣万人担送帰北邙、 珠襦・玉匣(しゅじゅ・ぎょくこう)、万人担ぎ送りて北邙(ほくぼう)に帰するは、
不如懸鶉百結独坐負朝陽。 懸鶉(けんじゅん)百結、独り坐して朝陽を負うに如かず。
「珠襦」はタマの垂れ飾り、これが「玉匣」(=玉のように美しい箱、要するにこれは柩です)にかけられているのは、豪華な棺桶に入れて外側を飾ってもらえること。「北邙」は後漢のころ、貴賤の墓地とされいた洛陽の北郊の丘のこと。「懸鶉」は「うずらを懸ける」ということですが、これは孔門の子夏が着ていたボロの服のあちこちに結び目や継ぎはぎがあるのを、遠くから見たひとが「(羽毛がまだらの)うずらが懸けられている」と思ったことから、「ボロい服」のことをいいます。「独坐して朝陽を負う」は、冬の午前中に、年寄が(家内労働からも解放されて)ひとり背中に朝日を当てて日向ぼっこをしていること。
真珠で飾り立てられた美しい柩に入れられて、一万人に見送られてお墓に葬られるより、
うずら模様のようなボロい服を着て、ひとり冬の朝日を年老いた背中に浴びて日向ぼっこしている方が、ずっとシアワセである。
「みんなきれいな棺桶に入れてもらいたいのでちゅかねえ」
―――オロカなことじゃなあ。
生前富貴、 生前の富貴と
死後文章、 死後の文章、
百年瞬息万世忙、 百年瞬息なれど万世に忙わしく、
夷斉盗跖倶亡羊。 夷斉(いせい)も盗跖(とうせき)もともに羊を亡う。
不如眼前一酔、 如かず、眼前に一酔して、
是非憂楽都両忘。 是非・憂楽すべて両(ふた)つながら忘れんには。
「夷・斉」は「伯夷・叔斉」の兄弟。周武王が殷に叛旗を翻したので、「周の粟を食まず」と首陽山に隠棲して餓死したという。清廉潔白なひとの代表。「盗跖」は「荘子」に出てくる大盗賊で、人の生き胆を食いながら孔子と面会し、脅し帰した。悪逆非道なひとの代表としてあげられる。「亡羊(の嘆)」は「列子」に引かれる故事、羊飼いが逃げたヒツジを追いかけたが、別れ道が多すぎて見失ってしまった。いろんなことを求めているうちに人生を費消していくことの喩えである。
生きているうちに地位と財産を求め、
死んだあとの名文家としての名誉を求め、
人生百年なんてまばたきし一呼吸するあっという間のことなのに、その間中いつまでもいつまでも忙しく働いている。
伯夷・叔斉のような立派な人も、盗跖のような悪いやつも、人生にはホントウには要らないことを追い求めていただけじゃないか。
目の前の一杯の酒に酔い、
正しいとか正しくないとか、心配だとか快楽だとか、そんなことはすべて忘れてしまう方がいいのではないか。
「そうでちゅよね。ようし、おいらもう明日会社なんか行かないよ」
―――わはは、おまえさんはコドモだからもともと行かなくていいんじゃよ。
「あ、そうでちた、うっしっしっし・・・」
―――わはははは・・・。
おいらと蘇東坡おじいたまの笑い声が天地の間に響いたのであった。
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宋・蘇東坡「薄薄酒」詞(宋・黄堅(?)編「古文真宝」前篇所収)。
ということで明日から会社行かないことにしまちた。このHPの更新はもうしばらく続けると思いまちゅが・・・。