(←世界に類例のないぶた型兵馬俑)
大切にしないと・・・。
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秦の時代のことです。
侏儒の優旃(わざおぎ=道化の旃(せん))が、会議中の始皇帝のお側に侍っていた。
ときに
天雨甚。
天雨ふること甚だし。
ひどい驟雨になってきた。
始皇帝が大臣たちと論じるのに夢中になっていると、さっきまで玉座のまわりをうろついていた優旃がいつの間にか部屋の外の廊に出て、庭先で驟雨の中立ち尽くしている護衛兵たちに向かって、からかうように
被盾郎、爾雖長、立雨中。我雖短、立殿上。
被盾郎、なんじ長といえども雨中に立つ、我は短といえども殿上に立てり。
「盾かぶりのおにいさんたち、みなちゃんは図体はでかいが雨の中〜、おいらはチビだが御殿の上〜。うっしっしっしっし〜」
と歌いかけた。
大臣は議論を中断して振り向き、たまりかねたように優旃を睨み据えて言う、
「優旃、政務会議の最中じゃ、静かにせよ!」
「・・・待て」
始皇帝は大臣を制した。
近侍の武官を呼び寄せると、庭先で濡れそぼっている護衛兵たちに
命徙立廡下。
徙(うつ)るて廡下に立つを命ず。
軒先に移って雨を避け、そこで警衛するように命じた。
そして大臣たちに向かって言うに、
「今回の攻勢は取りやめじゃ。さらに民力を貯え兵を養えてから攻撃にうつることとしよう」
「は。御意・・・ではござりますが、何故に」
「優旃が教えてくれたではないか。我が兵は図体がでかく盾も行きわたって武装は十分だが、なおこれへの尊重が不足である、と」
「な、なるほど」
大臣らは優旃を振り向いたが、優旃は意にも介さず、殿上ででんぐり返りなどをして遊んでいるばかりであったという。
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唐・李冗「独異志」巻下より。
でも、ちゃんと警護しないと大使でも刺されてしまう。