平成27年3月3日(火)  目次へ  前回に戻る

(善のふりは疲れるぜ・・・)

イヌに関するお話をいくつか。

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五代の、戦乱に明け暮れ、人心も荒廃していた時代のことである。

ある村人が、イヌ肉を料理して食べようとした。

ふとみると、飼い犬が腹を空かせているようである。

「おめえも食いてえか」

将其肉餒犬。

その肉を将(も)って犬に餒す。

その肉の一片を、ぽい、とそのイヌに与えた。

すると、イヌは

銜往草中、跑地埋之、嗚咽久而不去。

銜えて草中に往き、地を跑してこれを埋め、嗚咽久しくして去らず。

肉片をくわえて草むらに入って行き、地面を足で掘ってこれを埋め、その場でしのびなきを続けて動かなかった。

その人、これを見て大いに恥じた、ということだ。

衆説狗不相食者、近人道矣。

衆説に「狗あい食まざるは人道に近し」という。

ひとびとが言うに、「イヌというのは共食いをしない。人間の道に似ている」という。

しかしニンゲンの方こそ、権を争い富を譲らず、お互いを相食みあっているというべきなのではないだろうか。

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吏人(下級役人)の蔡超の家での出来事。

狗作怪。

狗、怪を作す。

イヌが怪しげなことをしでかした。

まず、

蹲於堂上、将拍板唱歌、声悲怨。

堂上に蹲り、拍板を将ちて唱歌するに、声、悲怨す。

座敷に座って、拍子取りの板を打ち、歌をうたった。その声、たいへん悲しげで怨むがごとくであった。

また、

一旦覓頭巾不見。

一旦、頭巾を覓むるに見えず。

ある日の朝、蔡超が外へ出かけようとして頭巾を探したが見当たらない。

探していると、イヌが

戴在竈上坐。

戴きて竈の上にありて坐す。

頭にかぶって、カマドの上に座っていた。

「なんじゃ、こいつ、怪しからん」

と取り上げたところ、イヌはまるでニンゲンのように

ニタニタ

と笑ったのだそうである。

其月超遇害。

その月、超、害に遇えり。

その月のうちに、蔡超は殺されてしまった。

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杜昭遠が権勢を失ったころ、

家多妖物昼見。

家に妖物多く昼見ゆ。

その家では、真昼間からおかしなことが立て続けに起こった。

例えば

狗作雞鳴。

狗、雞鳴を作す。

イヌがニワトリのように鳴いた。

ある日は、

架上双筆起舞、相対回旋不已。

架上の双筆起舞し、相対して回旋して已まず。

筆立てに架けられていた二本の筆が立ちあがって、向かい合ってぐるぐる回転して止まらなくなった。

杜昭遠これを見て、

既為崇。能自書乎。

既にして崇を為す。よく自書するか。

「こんな呪われた事が起こったのだ。ここまで来たら、何か字を書いてみろ」

と言った。すると

右一筆倒硯中、漬其亳、於案上大書一殺字。

右の一筆、硯中に倒しまとなりてその亳を漬し、案上に大書するに一「殺」字なり。

右の方の筆が、おのずとひっくり返って、筆先を下にして硯の中の墨汁をたっぷり着け、机の上(に広げられていた紙)に大きく「コロす」と一文字、書いたのである。

杜昭遠は茫然とした。

ああ。

其年杜陥大辟。

その年、杜、大辟に陥れり。

その年、杜は嵌められて死刑になったのである。

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ひどいです。

五代・陳纂「葆光録」巻三より。

 

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