平成27年2月12日(木)  目次へ  前回に戻る

(←こいつはブタかサムライか、それともマボロシか)

 あと一日出勤したら休みだ。

 休みまでまだ一日出勤しなければならない。

 今晩世界滅びるかも知れないから明日のことは考えない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

明の時代のことでございます。諸苧村がまだ仕官していなかったころ、友人の郎某というひととともに郊外に出かけたことがあったそうです。

道端で、

見片紙於地。

片紙を地に見る。

地面に紙切れが落ちているのを見かけた。 

「なんでこんなところに一枚だけ落ちているのだろう?」「まあいいや、わはは、こうしてやれ」

戯共溲之。

戯れにともにこれに溲す。

ふざけて、二人で紙におしっこを引っかけてやったのである。

そのあと近くの茶店で休憩していたら、向こうから老人がやってきた。

老人、さっきのところまで来て道端の紙を見て、「あ」とびっくりしたふうに飛び退った。そして腰を引きながら、

以杖戳紙。

杖を以て紙を戳(つ)く。

「戳」(タク)は「槍で突く」。ここでは「杖を槍にようにして突き刺した」ということであろう。

持っていた杖を槍にして、その紙を突いた。

そのまま紙を道端に押しのけると早足でこちらの方に歩いてくる。

「あのじいさん、何であんなことしているのだろう?」

苧村、気になって、老人に向かって、

戳者何也。

戳(つ)きしものは何ぞや。

「じいさん、あんたが今突いて押しやったものは何だったのだい?」

と訊いてみた。

すると老人が言うには、

紅蛇也。

紅蛇なり。

「赤ヘビだったんじゃよ」  

「へ? 紙ではない?」

「赤ヘビは毒があるからな」

と言い捨てて、老人は去って行った。

その老人とすれ違うように今度はコドモがやってきて、茶店の前を通りすぎ、やがてさっきの紙(=赤ヘビ)のところまで行くと立ち止まって、

「あれ? これは何でちゅかね?」

拾而啓之。

拾いてこれを啓く。

拾い上げて広げた。

「!」

見ていた苧村と郎某が驚いた。コドモが拾いあげるその時まで紙きれだったそれが、

則一荷嚢也。

すなわち一荷嚢なり。

なんと、荷物袋だったのである。  

コドモが紙を広げた、と見えたのは、その荷物袋の口を開けたのだったのだ。

荷物袋には

貯大銭四文。

大銭四文を貯えたり。

大型の銭が四枚入っていた。 

「わーい、お金を拾いまちたー」

遂持以去。

遂に持して以て去る。

コドモはその荷物袋を持って、行ってしまった。

苧村と郎某は、顏を見合わせ、

「われらが見たときは紙切れであったのに、老人には赤ヘビに見え、あのコドモの手の中で荷物袋になった。いったいなぜそんなことになるのかはわからないが、

是当帰之少年也。

これまさにこれを少年に帰すべきなり。

あのコドモがあの銭を手にするようにあらかじめ定まっていた、ということなのであろう」

と言いあって、ためいきをついたことであった。

・・・・・・・・・・・・・

明・閔文振「渉異志」より。見るひとによって同じモノがいろんなモノに見える、ということなのでしょう・・・か?

「チャイナは侵略戦争はしない」とか「ペキンとソウルと桃郷は兄弟」とか「北欧最高」とか、いったい何を見てそんなこと言っているんだろう、と思うこともその人にはホントウにそんなふうに見えてるのか。そういうことか。

 

表紙へ 次へ