情報収集力にも問題があるカモ
自分の国のことですから、ひとつひとつ自分たちで解決していきましょう。いけると思います。
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さて、日本刀の詩といえば宋の欧陽脩のが有名ですが、清の梁佩蘭のもあんがいイケている。
市中宝刀五尺許、 市中の宝刀五尺ばかり、
市中賈人向予語。 市中の賈人、予に向かいて語る。
「市場にすごい刀が出品されましたよ、長さは1メートル余り」
と、市場で商人が、わしに向かって声をかけてきた。
以下、商人のいうには―――
紅毛鬼子来大洋、 紅毛鬼子の大洋を来たり、
此刀得自日本王。 この刀、日本王より得たるなり。
赤毛のオランダ野郎が海を越えてやってきて、
この刀を日本の王から得たという代物なんですよ。
王はわざわざ赤毛のオランダ野郎に三日間の斎戒沐浴をさせてから、はじめてこの刀を授けたのだといいます。
刀を抜くと、龍とトラがにらみ合っているような気が溢れだしてくるんですが、この気は天上からこの刀に引かれて降りてきたので、その途中の空間を歪め、星の光をゆらめかせました。
黄色い、ヘビの護っていた宝珠がその柄頭に嵌め込んであり、このような価値の高い刀は世界にこれまでありませんでした。
有時黒夜白照人、 時有れば黒夜に人を白照し、
殺人血漬紫繡新。 殺人し血漬して紫繡新たなり。
暗闇の中でもこの刀は、光を放って人を照らし、
柄に巻かれた赤紫の縫い取りは今先ほどまで人を殺した血に漬けられていたようです。
刀身に浮かぶ光はゆらめいて、陰陽吉凶いずれとも分かちがたく、風吹き雷光ひらめくときには、雷鳴に応じて声を響かせるです。
うわさでは、日本王の命令によりこの刀の製造を開始し、巨大な窯の中で物質(「金」)とエネルギー(「火」)を合体させて必要な日にちを経過したとき、(その妖力があまりに強いので)
鋳成魑魅魍魎伏、 鋳成すれば魑魅魍魎伏し、
通国髑髏作人哭。 通国の髑髏、人哭を作す、と。
ついに刀が完成して、もろもろの妖怪・精霊はその行動をストップし、
国中のドクロが生きた人間のように悲しみの泣き声をあげた、というのです!
というぐらいすごい刀なんです。
その切れ味たるや、
人頭落地飛紙軽、 人頭、地に落つるに紙を飛ばすよりも軽く、
冰光在水鋪欲平。 冰光、水に在りて鋪きて平らならんとす。
ニンゲンの頭を地面に、まるで紙を飛ばすかのように軽々と斬り落とすことができる。
氷のように透き通った光を放ち、水上一面にその光が拡がってまるで水の上に光の絨毯を敷きつめたようになる。
名刀はそれを持つひとの心まで異常ならしむるもの。
国王恃刀好戦伐、 国王刀を恃みて戦伐を好み、
把刀一指震一国。 刀を把りて一たび指させば一国震う。
日本王はこの刀を得てより「ひひひ、わしは世界一の強者なのじゃ」と刀の力を頼んで征伐を好むようになりました。
なにしろ、この刀で一方の敵国のほうを指すと、瞬時にその国の大地が震える、というのでございますから。
赤毛のオランダ野郎はこの刀を入手して、広州のまちにやってきたのです。その船が通過する間、海も刀の不吉な力のために何やら澱んでいるようであったらしい。
さて、それがこの刀だが、市場のひとらはその価値がわからず、そんなやつらには千枚の金貨を積まれたところで売る気はない。
しかし貴殿になら、お売りいたしましょう!
―――ちょ、ちょっと待った。
我聞此語空歎呼、 我この語を聞きて空しく歎き呼ぶ、
兵者凶器胡為乎。「兵なるものは凶器なり、なにせんものぞ。
わしはここまでの言葉を聞いて、ため息ついてから怒鳴ってやった。
「軍事力は全体の幸福に資するものではない、とは「老子」の言葉じゃ。いったいこの刀を何に使おうというのか?
中国之宝不在刀、 中国の宝は刀に在らず、
請以此刀帰紅毛。 請う、この刀は紅毛に帰せよ」と。
わが中華の国の宝ものは刀(軍事力)なんかではないのだ、
この刀は赤毛のオランダ野郎のもとに還して来い!」と。
以上。
作者の梁佩蘭は、字を芝五といい、広東・南海のひと。康熙戊辰(1688)の進士、官は翰林院庶吉士に到ったという。
評者(沈徳潜)曰く、
字字鋒鋩偪人、駭膽慄魄。末見中国所宝、在明徳、不在武事、尤得尊崇之体。
字々、鋒鋩ひとに逼り、肝を駭(おどろ)かせ魄を慄(おのの)かす。末に見る、中国の宝とするところ、明徳に在りて武事に在らず、とはもっとも尊崇の体を得たり。
一字一字、そのきっさきはひとにぐいぐいと迫ってきて、肝っタマはびっくりさせられるし魂は震えあがる(ほどである)。最後のところで、わがチャイナの宝ものは「世界に明らかな徳」であって「軍事力」ではないのだ、と言いきっているのは、ほんとうに立派なスタンスであるといえよう。
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清・沈徳潜編「清詩別裁」巻十六より。
チャイナがこれを言うか?と思うと突っ込みどころ満載、ですが、邦人人質事件が二人とも斬首という結果になった今、いろいろ考えさせられるところである。