メリーさんのヒツジはみんな脱落組?
ダメだ。平日は消耗がひどい。やはり昨日の続きをするほどの元気がありません。こんな日は―――そうだ、コドモ賢者さまに来ていただいて、ありがたいお話をしていただこう。
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「おっほん、でっちゅ」
コドモ賢者さまはツケヒゲをひねりまして、さてさて申すには、
―――むかし、魯の国に単豹というひとがおりましたんでちゅじゃよ。
このひと、
巌居而水飲、而与民共利、行年七十、而猶有嬰児之色。
巌居して水飲し、民と利を共にして、行年七十にしてなお嬰児の色有り。
山中の岩窟を住処にして穀物を摂らずに水だけを飲んで暮らし、人民たちの役に立つことを教えて、年齢は七十歳になったが、いまも赤ん坊のような肌艶をしていた。
のでちゅ。不老長生のすべを弁え、いったい何歳まで生きられるのかわからないぐらい元気だったの。
ところがある日、彼がひょいひょいと山中を散歩しているとき、
不幸遇餓虎。
不幸にして餓虎に遇う。
なんとしたことか、腹を空かせたトラに出会ってしまったんでちゅなー。
「がおー」「うわーん」
ぼかん。
むしゃむしゃ。
餓虎殺而食之。
餓虎、これを殺して食らえり。
腹を空かせたトラは、単豹をぶっ殺して、食ってちまいまちた、とさ。
それから張毅というひとがいましたんでちゅじゃ。
この人は
高門懸薄、無不走。
高門薄を懸くるに走らざる無し。
「薄」はここでは「簾」の意。
大きな門に簾が掛けてある(ような富貴の家がある)と、必ず小走りに駆けこみまちた。
その屋敷の主人と交際を求め、自分も富貴の生活にのし上がったのでありまっちゅ。
ところが、そんなにして富貴の生活を送るうちに、
行年四十、而有内熱之疾以死。
行年四十にして内熱の疾有りて以て死す。
四十歳になったころ、内側からの熱情が身を衰えさせる病気で、死んでしまった。
のでありまちた。
ああ。
豹養其内而虎食其外、毅養其外而病攻其内。
豹はその内を養うに虎その外を食らい、毅はその外を養うに病いその内を攻む。
単豹は体内の気を養っていたのに、トラに身体を食われてしまった。張毅はうまいものを摂り豊かな暮らしをしていたが、病いに体内から蝕まれたのでちゅ。
いにしえよりこのように申しまちゅ。
善養生者若牧羊然、視其後者而鞭之。
よく生を養う者は牧羊の然るがごとく、その後るる者を視てこれを鞭うつ。
うまく生命力を大切するひとは、ヒツジ飼いのやり方と同じだ。群れからおくれそうなヒツジを見つけて、それを鞭で打ってついていかせるのだ。
と。
単豹と張毅、
此二子者、皆不鞭其後者也。
この二子なる者は、みなその後るる者を鞭うたざるなり。
この二人は、どちらもおくれそうなヒツジを鞭で打って群れについていかせるのを怠ったものなのでちゅ。
「なるほど、好きな方面にだけ特技を延ばしているだけではいけないのですね」
「まあだいたいそういうことでちょう。では、おいらはコドモなので、早く寝ないとちかられるから今日はここまでー」
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「荘子」達生篇より。不老長生を求めるひとは参考にしてください。わたしは富貴に走ることはございませんが、不幸にも明日こそトラに食われちゃうかも。