平成26年7月21日(月)  目次へ  前回に戻る

←ぶうすか。寝ている間にすべてが過ぎていかないものか。

三日前の夜には「もう二度と来ないのではないか」とタカをくくっていた平日がまた来る。今週は四日・・・。

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唐の末のころ。

福建に処士(仕えないでいるひと)・張摽という者がいた。

たいへん不思議なひとで、

三日五日臥如死而体不冷。

三日五日、臥して死するが如きも体は冷えず。

三日から五日ぐらいずっと死んだように眠っていることがあった。呼吸もしないのだが、体は温かいままである。

お。「三日から五日」ということは、平均すると四日である。明日から金曜日までと一緒だぞ。

既蘇、多説冥中事、或言未来。

既に蘇りて、多く冥中の事を説き、あるいは未だ来たらざるを言う。

息をふきかえすと、死者の世界のことをたくさんしゃべりだすのであった。また、未来のことを予言することもしばしばあった。

彼の言うことは死者と近親の者しか知らないようなことも多く、また未来のことは特によく的中する、というので評判であった。

20世紀の「眠れる大予言者」エドガー=ケイシーに極めて類似したタイプの能力者であったようです。

さて、そのころの福建の総督・王保宜将軍は、忠義に篤いひとで、反乱軍があちこちに現れて陸路での連絡がつかなくなった都・長安に上京しようとして、考えた挙句に

「そうだ!」

乃泛海。

すなわち海に泛ぶ。

とばかりに、東シナ海まわりで華北に行こうとした。

しかし残念ながら途上で船が転覆し、

因溺死。

因りて溺死す。

ために溺れ死んでしまったのであった。

王保宜の孫にあたる王侃が、留守職としてその後も福建に残って勢力を保持していたが、王侃はあるとき、

因家人疾、請摽禱於冥府。

家人の疾により、摽に冥府に禱らんことを請う。

親族が病に臥したので、張摽に

「あの世に行っていただいて、しかるべき官位のひとに病気の治癒をお願いしていただけまいか」

と依頼した。

「よろしうございます」

張摽はこれを請け合った。

・・・数日すると張摽は王家にやってきた。

たいへんにこやかに言うには、

君之先父在水府、有冥職。

君の先父、水府に在りて冥職有り。

「あなたの御祖父ぎみは、あの世の水中の宮で高位にお就きでいらっしゃいました。

そこで今回の件は御祖父ぎみにお願いしてまいった次第」

そこでいろいろと確認してみると、

其家事委曲、一一皆是。

その家事の委曲、一いちみな是なり。

家の中のことについて、いろいろと詳しく聞いてきたとのことで、訊ねたことには(家人にしかわからないはずのことまで)みな正しく答えたのであった。

このため、王侃もその「ホンモノ」であることを確信した、ということである。

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宋・呉淑「江淮異人録」より。

あちら側とこちら側とはそれほど遠く離れてはいない、というのは知れたことですが、なかなか行き来はしづらい。その間を眠っている間に往来できる、というこのひとは非常に便利なひとであったと申せましょう。

明日から平日になりますが、わたくしも三日から五日ぐらい家の中で寝ていようと思います。明日から暑いらしいし。

職場のひとたちは、

「そうか、肝冷斎はあの世に行っているのか。次に覚めたらあの世の情報を齎してくれるだろう」

と楽しみにして放っておいてくれるに相違なく、よもや「サボっている?」などとは考えたりはいたしますまい。

 

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