週末。ほっとするよりもまず「またもうすぐ月曜日が来る」という不安の方が先に来る。
不安を感じる必要なんてないのだ。ナニモノにも負けないようなゆるぎない自信を持てば、何も怖れる必要はないはずなのだ、と自分に言い聞かせてみる・・・。
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三国の時代、彭虎子というひとがおりました。
少壮有膂力、嘗謂無鬼神。
少壮にして膂力有り、かつて謂う、「鬼神無し」と。
若くて元気で筋肉もりもりで、「幽霊や死後の世界などあるはずがない」と豪語していた。
ナニモノにも負けないような、ゆるぎない自信を持っていたのです。
虎子の母が亡くなったとき、以前から彭家に出入りしていた俗巫(民間のシャーマン)が
戒之云、某日決殺当還重有所殺、宜出避之。
これを戒めて云う、「某日、決殺また重きに当たりて殺すところ有り、よろしく出でてこれを避けよ」と。
一族の者たちに警告した。
「○月○日は、大凶の中でも一段と重い凶に当たる日で、この家には不吉窮まり無いことが起こるであろう。みなさんその日はここを離れて他所で過ごさねばなりませんぞ」
と。
「うひゃあ(>_<)」
細弱悉出逃隠。
細弱はことごとく出でて逃隠す。
年寄や女コドモ、使用人など弱い者たちはみんなその日は家を離れ、他所に隠れた。
しかし、彭虎子は
「何を懼れることがあるのだ? もしかしたら、シャーマンのばばあが何か悪さをしようというのかも知れんではないか」
と
独留不去。
独り留まりて去らず。
ひとりだけ家に残り、逃げ出さなかった。
さて―――。
その日の夜になりました。
月も星も見えずつねにもまして暗い夜で、ほう、ほう、と闇に鳴くみみづくの声のみが、なまあたたかい風に乗って聞こえてくる晩だったそうでございます・・・。
夜中、有人排門入至東西屋、覓人不得。次入屋問廬室中。
夜中、人有りて門を排し、入りて東西の屋に至り、人を覓(もと)むるも得ず。次いで屋に入りて廬室中を問う。
深夜―――
ぎいい、と門が開けられ、誰かが庭に入ってきた。
その誰かは、東と西に向かい合った長屋の入り口まで来て、中にひとがいるかどうか探しているようであったが、誰もいないので、長屋に入り込み、それぞれの個室を覗き込みはじめたようだ。
(な、なにものだ? 一人か? 二人か? 人数さえわからんぞ・・・。とりあえず隠れなければ・・・)
虎子遑速無計、牀頭先有一甕、便入其中。
虎子、遑速して計無く、牀頭の先に一甕有り、すなわちその中に入る。
虎子は焦り出したが、どうしていいかもわからない。ふと気づくと、ベッドの頭の方の先に大きな甕が一つある。虎子はその中に入り込んだ。
そして、
以板蓋頭。
板を以て頭を蓋す。
中から板で蓋をして、身を隠した。
―――その瞬間、蓋の上に何かがのしかかった!
(な、なんだ?)
それは、ずる、ずる、と引きずるように蠢きながら、板の上に座り込んだようである。
(と、とじこめられたのか?)
すると、部屋の入口の方から声が聞こえた。なんとも澱んだ、重い声である。
板下無人邪。
板下ひと無きか。
「ソ・・・ノ・・・イ・・・タ・・・ノ・・・シ・・・タ・・・ニ・・・ハ・・・に・・・ん・・・げ・・・ん・・・ガ・・・イ・・・ル・・・ノ・・・デ・・・ハ・・・ナ・・・イ・・・カ・・・」
(!!!!)
板の上のモノが答えた。
無。
無し。
「イ・・・ナ・・・イ・・・」
(あ!)
虎子は息を呑んだ。
その声は、死んだばかりの母親の声だったからだ。
部屋の入口から声がした。
「ソ・・・レ・・・デ・・・ハ・・・シ・・・カ・・・タ・・・ナ・・・イ・・・、モ・・・ド・・・レ・・・」
ずる、ずる・・・
相率而去。
あい率いて去れり。
板の上のモノは、部屋の入口から声をかけていたモノと一緒に去って行った。
―――翌朝。
家人たちが家に帰ってきて見たのは、大甕の中で気を失っている虎子の姿であった。
しばらく介抱すると虎子は息を吹き返し、その後は何か特段の異常は無かったが、虎子自身はまるで人が変わったかのように慎重で優しいひとになった。
・・・ということである。
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南朝宋・劉義慶「幽明録」より。
うう。ダメだったのだ。ナニモノにも負けないようなゆるぎない自信を持っていても、ヤラれてしまったのです。やっぱりどんなにがんばってもダメなやつはダメなのだ・・・。わたしは明日はもう逃げ出し、身を隠すことといたします。なのでもう今後の更新は・・・。