平成26年6月28日(土)  目次へ  前回に戻る

 

ふとっているほうが有利なこともあるのでございます。

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明の正統年間(1436〜1449)、徐州・䔥県の王氏の娘が、嫁入りの行列の最中に尿意を催して車から降り、用を足していたところ・・・

忽大風揚塵吹女子上空中、須臾不見。

忽ち大風塵を揚げて女子を上空中に吹き、須臾にして見えずなりぬ。

突然すごい風が塵を捲き上げながら吹いてきて、王氏の娘も上空に飛ばされた。そしてあっという間に視界から消えてしまったのである。

「うひゃあ」

行列にしたがっていた親類縁者たち、みな言う、

鬼神摂去。

鬼神摂(と)り去れり。

「精霊さまじゃ、精霊さまに攫われたのじゃー!」

と。

父母をはじめ家族の者たちは、祝いの途中に突然にこの悲劇に見舞われたのである、声をあげて哭き叫び止むことがなかった。・・・・・

ところが、この娘、

是日落於五十里外人家桑樹上。

この日、五十里外の人家の桑樹上に落つ。

この日のうちに、約30キロぐらい離れた人家の桑の木の上に落ちたのだった。

人家のひと大いに驚いたが、気を失っている娘を介抱したところ、間もなくすると目を覚ましたので、

問之知為王氏女、被風括去。

これに問うて王氏の女にして風に括去せられたるを知る。

質問してみると、䔥県の王氏の娘で、風に飛ばされてここまで来たのだ、ということがわかった。

「なんだ、䔥県の王どののお嬢さまか」

この家は先代同士が商売で付き合ったことのある知り合いであったので、さっそく使いを立てて娘の無事を知らせてやった。

迎えの者が来る間に

「空の上からの眺めはどうであったか」

と訊ねてみたところ、

但聞耳辺風声霍霍、他無所見。身逾上風愈急、体顫不可忍。

ただ耳辺の風声霍霍たるを聞くのみにして他に見るところ無し。身いよいよ上れば風いよいよ急、体顫(ふる)えて忍ぶべからず。

「耳の横で風がびゅうびゅういうのを聞くばかりで、目にはなんにも見えませんでしたのじゃ。からだが上空にあがればあがるほど風は強うなってきて、わらわは体が震えてどうしようもあらしまへんでした」

とのこと。

翌日帰復成婚。

翌日帰りてまた婚を成せり。

翌日には実家に帰り、婚礼を無事終えた。

という。

当時は相当に評判になった事件である。

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明・王リ「寓圃雑記」より(「奇聞類紀摘抄」巻一所収)。

ふとっているとこんな遠くまで飛ばされることがありませんので、この場合はふとっていると有利である。

 

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