暑くて疲れた。関東のみなさんはあちこち雷雨たいへんだったようですね。
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雨を見ていて、ふと思い出した歌。
長相思、 長くあい思うも、
久離別。 久しく離別す。
美人之遠如雨絶。 美人の遠き、雨の絶するが如し。
「雨絶」というのは六朝期特有の言い回しで、雨が雲から別れ地上に落ちてもう空に戻れない、そういう絶望的に遠いところにあることをいう。
ずっと思っていたのだが、長い間会えないでいる。
あのすてきな人は、地上に落ちた雨が空を見上げるような、そんな遠い遠いところにいるのだ。
独延佇、 独り延佇(えんちょ)し、
心中結。 心中に結ぶ。
望雲去去遠、 雲を望むも去り去りて遠く、
望鳥飛飛滅。 鳥を望むも飛び飛びて滅(き)ゆ。
空望終若斯、 空しく望みてついに斯(か)くのごとし、
珠涙不能雪。 珠涙、雪ぐあたわず。
ひとりでずっと佇んでいると、心の中に憂いの結び目ができてしまう。
雲を見上げても、雲は行き、遠くへ行ってしまい、
鳥を見上げても、鳥は飛び、見えなくなるまで飛んでいってしまった。
あてどなく見上げていても、結局はこのようにしかならない。
たまのように流れた涙は、ぬぐってしまおうとしてもぬぐいきれないのだ(あとからあとから流れてくるので)。
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梁・張率「擬楽府長相思」(楽府の「長相思」に擬する)より(「玉台新詠集」巻九所収)。
男からでも女からでもいいのですが、空のはたてのひとを恋う、というあまり漢詩っぽくなくて「演歌」みたいな感情がうたわれております。しかし「楽府題」の替え歌を貴族の張率さまが作った、というだけで、張率さまのほんとうの経験とか心情をうたっているわけではないんですよ。
張率、字は士簡。作文に巧みにして、梁武帝(在位502〜549)より称賛されたという。後、新安太守に至った。
あなたの上に降ってあなたをずぶ濡れにする雨も、「なんでおれはこんなところに降らねばならぬのだ」とつらい思いをいたしているのでしょう、と思えば、なんだか同じ不平を託つ知友のような気さえしてくるではありませんか。・・・しませんか、そうですか。