←ブタ人間。
信じられないが何とか週末。今週は絶対乗り越えられない、と思ったので週の半ばにタマシイだけからだから脱け出してどこかに行ってしまっており、週の後半は「ふぬけ」状態で生きていた。週末になりましたので、逃げて行ったタマシイを呼び戻します。
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魂兮帰来。
去君之恆幹、何為四方些。
捨君之楽処、而離彼不祥些。
魂よ、帰り来れ。
君の恆幹を去りて何すれぞ四方する。
君の楽処を捨てて、而してかの不祥に離(かか)らんか。
「些」(サ)は意味の無い助字で「合いの手」らしいのですが、この詩以外ではまず見ない「合いの手」であるが、宋・沈括「夢溪筆談」が四川や湖南の蛮族の「呪文」の句末に使われる、と言っている。ちなみにこの詩は「楚辞」の「招魂」篇。どこかに行ってしまった屈原の魂を巫祝(シャーマン)が呼び戻す、という設定で、@屈原の弟子の宋玉が作った、A屈原自身が作った、という両説があります。が、屈原から切り離して、巫祝集団が伝承していた魂を呼ぶための呪文だと考えてしまった方がいいかも知れませんのでは?
タマシイよ、帰ってこい。
おまえのからだを去って、どうしてどこかに行ってしまったのだ?
おまえの楽しい場所はここなのに、それを棄てて不幸せな目に遭いたいというのか?
続いて東に向かって(何か儀式をしながら詠うのでしょう)、
魂兮帰来、東方不可以託些。
長人千仞、惟魂是索些。
十日代出、流金鑠石些。
彼皆習之、魂往必釋些。
帰来兮不可以託些。
魂よ、帰り来れ、東方は以て託すべからず。
長人(ちょうじん)は千仞、ただ魂のみこれ索(もと)む。
十日(じゅうじつ)代わり出で、金を流し石を鑠(と)かす。
彼はみなこれに習うも、魂は往かば必ず釋(と)けん。
帰り来れ、以て託すべからず。
タマシイよ、帰ってこい、東の方は身を寄せるべきところではない。
身の丈千仞(1600mぐらい?)の巨人がいて、ひとのタマシイばかりを探し求めているだろう。
この世には十の太陽があり、それらが毎日交代で日の出することになっているので、残りの九つは東の地にあるから、その熱で金属も流れ鉱物は融けていることであろう。
東方に棲むモノはその世界に慣れているだろうが、タマシイがそこに行けば必ず融けてしまうだろう。
帰ってこい、そこは身を寄せるべきところではない。
古代の楚の地方では、東方に巨人や太陽がいた(と信じていた)わけです。ワクワクしますね。
次いで、今度は南の方に向かって呼びかける。
魂兮帰来、南方不可以止些。
雕題黒歯、得人肉以祀、以其骨為醢些。
蝮蛇蓁蓁、封狐千里些。
雄虺九首、往来倏忽、呑人以益其心些。
帰来兮不可以久淫些。
魂よ、帰り来れ、南方は以て止(とど)まるべからず。
題に雕(ほ)り歯を黒くし、人肉を得て以て祀り、その骨を以て醢(かい)と為す。
蝮蛇(ふくだ)蓁蓁(しんしん)として、封狐(ほうこ)は千里す。
雄虺(ゆうき)九首ありて、往来すること倏忽(しゅっこつ)、人を呑みて以てその心を益す。
帰り来れ、以て久しく淫(あそ)ぶべからず。
「雕題」はひたいに彫りモノ(タトゥー)をする、「黒歯」は歯を黒く染める、いわゆる「おはぐろ」風習。「醢」(かい)は砕いてぐちゃぐちゃにして塩漬けにして腐らせた食べ物、要するに「シオカラ」。「蝮蛇」はマムシとヘビ、「蓁蓁」は集まってさかんなること。「封狐」は「大きなキツネ」、「雄虺」は「おすの大蛇」、「倏忽」は「たちまち」「すばやく」。
タマシイよ、帰ってこい、南の方は止まるべきところではない。
ひたいに入れ墨を入れ、おはぐろをした蛮人が住んでいて、やつらはニンゲンの肉を得てはこれを礼拝し、骨付きのままでシオカラにして食べているだろう。
マムシやヘビがうようよ・もじょもじょといて、巨大なキツネが千里を走り回っているだろう。
九つの頭のあるオスの大蛇が、すばやく行き来しているが、こいつはニンゲンを食べるとその心臓(生命力)が補強されるというやつなのだ。
帰ってこい、そこは長くふらふらしているべきところではない。
南の方は、さらにコワいですね。おはぐろ人肉シオカラ族、マムシ、九頭大蛇、巨大キツネ・・・。ワクワク。ドキドキ。
ああ西や北もコワいんだろうなあ。
そうなんです、タマシイへの「帰ってこい」という呼びかけは、西と北、さらに天上と地下にもなされ、それぞれの場所で遭遇するおそろしいドウブツ、魔物、自然現象が列挙されていて読んでいるだけで冒険者魂がワクワクしてくる・・・のですが、長くてめんどくさくなってきた。肝冷斎の逃げ出したタマシイもなかなか見つからないし、また今度。
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「楚辞」招魂篇より。古代の愚昧な民衆の、中でも巫祝(シャーマン)どもの伝承詩ですから、幻覚性のクスリなどを服用しながら「ひひひ」「へへへ」「ほほほ」と妄想した世界です。富や名声や地位や権力や恋や愛や友情や連帯やその他もろもろで満たされたみなさんの世界とは違って虚妄ばかりでバカらしくなってきますね。