平成26年5月20日(火)  目次へ  前回に戻る

 

PC遠隔操作は冤罪で人生狂わされたひとも出ているんですよ。

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五代のころ、江西・洪州府(今の南昌であるという)に本営を置いていた藩鎮の鍾傅之は、その幕中の将校・晏某を浙江に使いに出したことがあった。

使者ですから遠隔操作ですね。

晏某が杭州まで至ったとき、ちょうど季節は春先、寒食のころであったが、

州人出城、士女闐委。

州人城を出、士女、闐委たり。

一州のひとみな城壁の外に出、おとこもおんなも郊外の野に満ちあふれていた。

そのひとたちは、郊外の野の一画を十重二十重に取り巻いて、何かに見入っているのである。

「いったい何事だ?」

遠隔操作され中の晏某だったが、ひとびとの後ろから郊外に出た。

見ると、ひとびとの取り巻いた真ん中には、

翁媼二人対飲於野中。

翁媼二人、野中に対飲せり。

じいさんとばあさんが、野原の中で向かい合って酒を酌みあっているのであった。

ひとびとはひそひそとお互いに囁きあいながら、このじいさんとばあさんをじっと見つめているのだ。

やがて―――

ふわふわと一片の雲が空から、じいさんたちの側に降りてきた。

ひとびとはざわめきを止め、あたりには静寂が広がった。

其翁忽爾乗雲而上。

その翁、忽爾として雲に乗りて上がる。

やおらじいさんは、ひょいとその雲に乗っかった。雲はつつつーと昇りはじめる。

静寂が破れた。

―――おお! おお! おお!

万衆喧呼。

万衆喧呼せり。

万をも数えるひとびとは、大声を挙げて呼ばわった。

媼仰望慟哭。

媼、仰望して慟哭す。

ばあさんは、昇りはじめたじいさんを仰ぎ見て、声をあげて哭いている。

翁為下十数丈、以手慰止之。

翁、為に下ること十数丈、手を以てこれを慰止す。

じいさんはばあさんが気にかかるらしく、数十メートル降りてきて、なにやら手ぶりで慰めているようであった。

しかしばばあはそんなことでは納得がいかないらしく、やはり何やら泣き叫んでいた。が、それもしばらくの間で、

俄而復上、極高而没。

俄にしてまた上り、高きを極めて没す。

じじいの乗った雲はまたすぐに昇りはじめ、どんどん高く昇っていって、やがて見えなくなってしまった。

・・・晏某と知り合いであった艾某の息子から聞いたことである。

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宋・呉淑「江淮異人録」より。じじいはばばあを雲の上から遠隔操作しようとしたけど出来なかったみたいですね。遠隔操作は難しいものです。そのため、遠隔操作されていても、まわりのひとが「こいつ、遠隔操作されている!」とわかってくれないので困ってしまうんです。

 

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