本日はクリスマス・イヴでちたー! ・・・というが本当か? クリスマスなどという行事は本当にあるのであろうか。わたしは見たことがないぞ。
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さて、これは時も所も明らかな話であるから、ほんとの話じゃ(ろう)。
―――明の弘治丙辰年(1496)のこと、江西・安遠県の馬鞍山という山での出来事である。
この山の頂には巨石があったのだが、ある日、この巨石が
移于半山路側。
半山の路側に移る。
山の中腹あたりの道の横に場所を移していたのである。
発見した者たちは驚いた。
「これはどういうことだ?」
「山頂からここまで山が崩れたり石が転がった跡が全くない・・・」
「ここまで飛んできたということであろうか?」
有見者走報。
見者走報する有り。
そこで、発見者たちは大急ぎで県の役所に報せたのであった。
「なんじゃと!」
県尹即乗馬来視石。
県尹すなわち乗馬して来りて石を視る。
県知事は(事の重大さに驚いて?)すぐに馬に乗ると石の様子を見に走った。
すると・・・ああ、何ということであろうか。
石已下山麓矣。
石、すでに山麓に下れり。
石は、もう山の麓にまで移動していたのである。
やはり崩れたり転がったりした跡が無いので、もはや石がここまで飛んできたことは明らかであった。
「なんということじゃ・・・。このままにはしておけぬ」
知事は村の長老たちを集め、薪を伐ってこさせると、大なべを火にかけ、その中に「醋」(酢)を大量に入れさせた。
ぐつぐつ。
やがて醋は沸騰しはじめる。
知事は、巨石に
焼醋沃以鉄鎚砕焉。
醋を焼きて沃し、鉄鎚を以て砕けり。
沸騰した醋を浴びせ、沁み込んで柔らかくなったところを鉄の鎚で打たせて、ついにこの巨石を粉々に砕いてしまった。
そして、
「このことは誰にも言うではないぞ」
と堅く口止めし、
不報上官。
上官に報ぜず。
自分も上司に報告しなかった。
このため、石の移動は朝廷には知られることが無かったのだが、
明年盗起摽掠居民、兵擾数県。
明年、盗起こり居民を摽掠して、数県を兵擾せり。
この翌年、(安遠県では)反乱が起こり、人民を殺し掠奪し、数県にわたって軍隊が出る騒ぎとなった。
のであった。
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なので、みなさんも石が動いたら気をつけてください。それにしても、「石が動いたら気をつけないといけない」ということを後世に伝えるタメになる記録ですね。
このタメになる記録は、明の施顕卿が諸書に載せられた不可思議な事件を分類して記述し直した「奇聞類紀摘抄」なる本の巻二に書いてありました。「摘抄」なので、書いてあったことそのままではなく、少々簡略化して記述しているらしい。この事件は、もと「聞見類纂」なる書に出るという。
施顕卿は無錫のひと。九峰山人と号す。この「奇聞類紀摘抄」なる書物を叙述したのは萬暦四年(1576)で、この時山人はすでに八十二歳であった、というのであるから、どうせ「ヒヒヒ」と笑いながら変な話を集めていたくそジジイであったのであろうと思われる。