事務的にやりますよ。感情無いんで。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
東晋の隆安元年(397)、雍州の刺史・郗恢の家でもう夜中だというのに、なにやら子どもたちが騒いでいる。
主人の郗恢が燭を持って
「いったいなにごとか」
と顏を出すと、
「あ、おやじたま、実は・・・」
と子どもたちのいうことには―――
有一物如蜥蜴。毎来輙先扣戸。則便有数枚、便滅燈火。
一物の蜥蜴の如き物あり。つねに来たるにただちに先ず戸を扣(たた)く。すなわち数枚有りて、すなわち燈火を滅す。
トカゲのようなモノが来るんでちゅ。やつらは来ると、まずは外から戸を叩きます。戸を開けてやるとそこには何匹かのそいつらがいて、そいつらが睨むと燈火が消えてしまうのでちゅ。
このため
児女大小、莫不驚愕。
児女大小、驚愕せざるなし。
子どもたちは少し大きいのも小さいのも、どきどきして眠れない。
今夜も来るのではないかと待っているのだ、というのであった。
「そのトカゲみたいなのは、何をしに来るのかな?」
「わかりまちぇん。灯りをつけ直すときにはもういなくなっているのでちゅ」
「う〜ん、そんなものがいるはずないじゃろう。いつまでも騒いでいないでもう寝るがいい・・・」
としかりつけている、ちょうどそのとき、
トン、トン。
と戸を敲く音が。
膝の高さぐらいのところから聞こえる。
「ほら、来まちた、来まちたよー」
「風のせいに決まっておる」
と言いながら、郗恢が戸を開けてみると、そこには人の腰ぐらいの高さのトカゲが数匹、闇の中に立ち上がっていた。
「あ―――」
と叫び声をあげた瞬間に手にしていた燭が、何ものかに吹き消されたかのように消えた。
「誰か!誰か、燈火を持ってこい!」
「あい、ただいま」
家人が奥の間から燈火を持ってきたときには、もう戸の向こうには何もいなかった。表に出てよくよく調べてみたが、怪しいものの気配もなかったのである。
さて、翌年、殷仲堪が反乱を起こした。
殷は郗恢を仲間に引き込もうとしたが、郗恢はこれを否んで都・建安に逃げ帰ろうとし、
道路遇害、并及諸子。
道路に害に遇い、并(なら)びに諸子に及べり。
その途上で反乱軍に出会って惨殺された。そのとき、あの夜トカゲの怪をともに見た子どもたちはみな、巻き込まれて殺されてしまった。
やっぱり夜更かしはいけませんね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
宋・劉義慶「幽冥録」より。
あ、そうですか。ふーん。と事務的に。トカゲのでかいのと反乱軍との関係とかよくわかりません。何か関係あるのかも知れませんしないカモ知れません。なお、このトカゲは、おそらく小型恐竜の最後の存在記録ではないかとも思うのですが、ちがうかも知れません。いずれにせよ淡々と。感情無いので。