寒冷斎、やっぱりちょっとムリになってきた。
しかし寒冷斎は東北出身者として粘りを見せて、今日の更新だけはなんとか果たそうとするのだった。
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「海大魚」の続き。
―――靖郭君・田嬰に「もう少し説明してくれ」と言われた説客は、座りなおして答えて言うた。
君、不聞大魚乎。網不能止、鈎不能牽。
君、大魚を聞かずや。網も止むるあたわず、鈎も牽くあたわざる。
「あなたは、大魚のことをお聞きになったことはございませんか。網を広げてもそれを突き破ってしまうし、大きな鈎でひっかけても捕らえて引っ張りあげることができない、あの強力な魚のことを。
大魚は誰にも邪魔されることもなく、広大な海中で、自らしたい放題に振る舞っているのでございます。
ところが、
蕩而失水、則螻蟻得意焉。
蕩して水を失えば、すなわち螻蟻、意を得るなり。
「蕩」は「ゆりあげられる」でございます。
大波にゆりあげられて陸上に打ち上げられてしまえば、今度はオケラやアリのようなちっぽけなものたちが好き放題にその大魚を齧り、食べてしまうのです。
海を離れた大魚は、下らない者たちのエモノでしかない。
今夫斉、亦君之水也。君長有斉。奚以薛為。失斉、雖隆薛之城到於天、猶之無益。
今、それ斉は、また君の水なり。君の長は斉に有り。なんぞ薛を以て為さん。斉を失わば、薛の城を天に到るまで隆しとするといえども、なおこれ無益なり。
さて、現実に当てはめてみますと、斉の国はあなたさまという大魚にとっても海でございます。あなたさまがその力を思う存分に揮えるのは、斉に居てこそ。薛という田舎ではあなたがあやつる相手もおりませぬ。斉の国での地位を失ったなら、薛の地に城を築いて、その城壁を天に届くほど高く造ったとしても、けっきょくのところ何の益もございますまい」
と。
田嬰は頷き、
「よくわかった」
と言いまして、薛に城を築くのを止めたのでございました。
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というお話でございました。
――はあ?
――なんだ、昨日から引っぱっておいてこんなレベルか。
――こちらは婚活やら対策マニュアル読みやらで忙しいんだぞ。
――ほんとにダメねえ、寒冷斎も、その所属する肝冷斎種族も。競争心が無いからね。
「わはは」「いひひ」「おほほ」
と、またみなさまの攻撃の嵐。職場、家庭、通勤電車、東京ドーム、あらゆるところで攻撃、攻撃、また攻撃です。もうイヤ。
一応、以上の話だけでは寂しいカモ、とわたくし自身も思うので、靖郭君・田嬰について、もう一つお話しをいたしましょう。
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靖郭君は、若い閔王(在位前300〜前284.靖郭君の甥に当たる)が即位すると、後見者として申し上げた。
五官之計、不可不日聴也而数覧。
五官の計は日に聴きて、またしばしば覧ざるべからず。
「政府を構成する五つの役所からの報告は、毎日毎日聴取し、またその報告書を何度も何度も見なければなりませんぞ」
と。
王は答えて曰く、
諾。
諾せり。
「あいわかった」
そんな細かいことまで国王が一々見ることができるものなのでしょうか。
已而厭之、令与靖郭君。
すでにしてこれを厭い、令して靖郭君に与う。
しばらくすると王は飽きてしまい、靖郭君に頼み込んで、その権限を渡してしまった。
こうして田嬰は斉の国政を掌握することに成功したのである。
・・・・・・こちらの方の話は、競争に明け暮れる東京のみなさまの心にも愬えるところがある?かも。
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以上、「戦国策」巻四・斉上より。なお、この靖郭君・田嬰のむすこが「食客三千人」の孟嘗君・田文でございますが、その人のお話はまたいつかの機会に。
――と思いましたが、もうダメだ。もうガマンも辛抱もできん。
なんにしろわたくしども肝冷斎族の負けです。みなさんたちのようなギラギラしたひとたちと一緒にやっていくのはもうムリ。わたくしども、もう荷物まとめて郷里に帰りますので、このHPも今日までです。
ほんとうにこれまでありがとうございました。