今日は台風が来るので早めに帰ってきましたよ。
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むかしむかしのことでございます。
天竺のどこかに比丘(ビク。男性出家者。要するにお坊さん)がおって、野外で座禅していた。
そのとき、野火が起こった。野火の炎は舌なめずりするように原野に広がり、ついにその比丘も炎に包まれた。
しかし、
野火焼、不焼人。
野火焼けども、人を焼かず。
野火がその人を焼いたはずなのに、その人は焼けなかった。
そのようすを見ていた人があって、
見之謂是鬼、便斫之。
これを見て、「これ、鬼なり」と謂い、すなわちこれを斫る。
その人が焼けなかったのを見て、「こやつは人にあらざるなり」と言って、即座に刀を抜いて比丘を斬った。
がちん。
その人に触れた瞬間、
刀折不入。
刀折れ、入らず。
刀は折れてしまい、その皮膚に傷つけることもできなかった。
けだし、心を統一していたので刀はその体を傷つけられなかったのだし、からだが柔軟だったので燃えなかったのである。
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それからまた別の比丘が座禅していたときのこと、
弟子呼之飯、不覚。
弟子これに飯なりと呼ぶも覚めず。
弟子が、「ご飯でございますよ」と呼びかけたが目覚めない。
そこで、弟子は
「お師匠、起きなさいってば」
前牽其臂。
その臂を前牽す。
比丘の両腕を前に引っ張ってみた。
びよよ〜〜ん。
臂申長丈余。
臂、申(の)びること長丈余なり。
両腕は、引っ張られるままに、3メートル近くまで伸びた。
「うわあ」
弟子大いに驚き、
「伸びたままでは困るでしょう」
と
便取結之。
すなわち取りてこれを結ぶ。
両腕を結んでみた。
しかしまた
意恐結不可、復解之。
意(おも)うに結ぶも不可なるを恐れ、またこれを解く。
考えてみると、結んでそのままというわけにもいくまいと思い、また解いてみた。
その間に腕はだんだん縮んでもとの長さになったのであった。
師禅寤、苦臂痛、問弟子。
師、禅寤するに、臂の痛きに苦しみ、弟子に問う。
師匠の比丘は座禅から覚めて、腕に激痛があるので、弟子に「な、何か心当たりはないか」と問うた。
「実は・・・」
白如是。
白すことかくの如し。
と、正直にあったことを答えた。
師言、汝不解寤我、折我臂。
師言う、「汝、我を解寤せずして我が臂を折れり」と。
師匠の比丘は言った、
「お、おまえは、わしを座禅から覚めさせもせず、わしの腕を折りおったのか!」
比丘の両腕の骨はおかしな方向に曲がってしまっており、もとに戻らなかったそうである。
・・・・というように、座禅をしますと、
柔軟如綿、在母腹中亦爾。
柔軟なること綿の如く、母の腹中に在ることまた爾(しか)り。
ワタのようにふにゃふにゃに柔らかくなり、母の胎内にあったときと同様になるのである。
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台風が来たのでちょっとドキドキして元気になったので、今日は少しオモムキを変えまして、後漢の時代、月支国出身の沙門(僧侶)であった支婁迦讖(しるかしん)訳の「雑譬喩経」よりご紹介してみました。(あんまりオモムキは変わらなかったかも知れません)
台風の中でも座禅してるとふにゃふにゃになって風には耐えられるかも知れません。しかし腕とか足とかボキボキに折れそうにも思われます。
←妹がりと馬に鞍置きて生駒山うち越えくればもみぢ散りつつ(妹許跡馬鞍置而射駒山撃越来者紅葉散筒)(万葉集)