昨日は肝冷斎は電波が通じないところにおりましたので更新してくれませんでした。今日は宮崎県内で「うひゃあ、明日になるとまた平日が来ますよー」と大騒ぎしながら樹木になってしまいました。遺されたこのわし、慣例斎めが最後の力を振り絞って更新をせねばならぬ・・・。
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またまた金の時代のことでございます。
鎮城という町では、その日新しい府知事がやってくるというので、府の役人たちはみな、朝から妓女や楽人らを連れて城外の駅亭(町と街道をつなぐ宿泊・駅逓施設)に出て、歓迎の宴の準備に忙しかった。
そんな中、昼ごろのことであったが、駅亭のそばを通って、
見一婦、被髪跣足、喘汗入城。
一婦の、被髪・跣足にて喘汗して城に入るを見る。
ひとりの女が、髪を振り乱し、はだしで、汗を流し喘ぎながら城門の方に向かうのが見えた。
あまりの異様さに、役人の一人が呼び止めて
「いったい何の用で城内に向かっているのか」
と問うたところ、
其姑卒病、買薬欲救之。
その姑卒病し、薬を買いてこれを救わんとするなり。
女のシュウトメが急病で倒れたので、それを救うために城内に薬を買いに行くのだ、ということであった。
「それはたいへんじゃのう」
と役人たちが頷いているうちに、彼女は城内に駈け入っていきました。
それからしばらくしたとき―――
亭中人聞、空際有相問答者。
亭中の人、空際にあい問答する者有るを聞く。
駅亭の中にいたひとたちは、みな聞いた。空中で、誰かと誰かが問答しあっているのを。
その問答は
―――出城未。
―――出城いまだしや。
「もう城は出たか?」
―――未。
―――いまだし。
「まだのようでござる」
と聞えたのである。
役人たちはこれを聴いて、それがあまりに明瞭であったので
大駭怪、不知所謂。
大いに駭き怪しみて、謂うところを知らず。
たいへん驚き、いったい何であろうかと不思議に思ったが、あまりに不思議なことでことばにはならなかった。
お互いに顏を見合わせていると、
少之、婦得薬而出。
これを少(しばら)くして、婦、薬を得て出づ。
しばらくして、さきほどの女が薬を手にして城内から走り出てきた。
その時である―――信じられないことが起こったのだ。
みしみし、という不気味な音とともに城中に土煙が立ち昇りはじめ、ついで大音響とともに城内の建物という建物が、すべて崩壊しはじめたのだ。
あっという間の出来事であった。
城随陥。
城、したがいて陥つ。
町が、まるごと地中に陥没したのである。
「な、なんてことだ―――!」
役人たちは兵卒らを指揮して救助に当たったが、
城中無一人免者。
城中一人も免るる者無し。
町にいた人はただ一人も生き残らなかったのである。
思うに、
此婦殆以孝感脱此禍歟。
この婦、ほとんど孝の感を以てこの禍いを脱するものか。
あの女は、シュウトメへの孝行の気持ちに精霊たちが感心して、この災害から脱出できたのではなかったろうか。
このとき、その女を見、空中の声を聞き、また城内の救助に当たった役人たちの中に、後に中京(ペキン)で記録官になった人がおり、この話はその人から聞いたのであるが、
惜不問此婦姓氏耳。
惜しむらくはこの婦の姓氏を問わざるのみ。
残念なことには、その女の族名を調べていなかったので、このような事件については記録できたが、その素晴らしい女性の名前は伝わらないのである。
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わしら肝冷斎族の更新努力も、いつの日か、この女の孝心のようにどこかの高次元の世界の人たちに評価されないものかと思ってみたりするのですが、逆に後生の妨げか・・・。
金・元好問「続夷堅志」巻四より。一城ことごとく陥没してしまうというのもたいへん不思議な事件ですが、その記録官某というひと、ほんとのことを言っているのか、にやにやしながらおもしろおかしな話をしただけなのでは・・・という点がちょっと気になります。