だめな勉励斎でござい・・・ま・・・す・・・。わしなどが更新してもしようがない、というほどわしはダメなのですが、代わりが来るまではわ・・・し・・・が・・・。
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元の世祖フビライハーンの宮廷での事件でございます。ハーンが諸大臣を居並べて殿中に政務を執っているところへ、ある知らせが飛び込んでまいりました。
猟者失一海東青鶻。
猟者の一海東青鶻を失えり、という。
鷹狩の担当者が飛んできて報告するには、一羽の俊敏な海東青の鷹を逃がしてしまった、というのである。
―――なに? しかも気に入りのあいつを?
普段ほとんど感情というものを表にしないハーンが表情を変えた。
盛怒。
盛んに怒る。
激しく憤怒されたごようすである。
そのハーンの顏色を見て、近侍の者がすかさず、
「陛下、
是人去歳失一鶻、今又失一鶻、宜加罪。
このひと、去歳に一鶻を失い、今また一鶻を失うなれば、よろしく罪を加うべきなり。
こやつは確か去年にも鷹を一羽逃がしてしまったはずですぞ。それが今また一羽逃がしてしまったのですから、何か罰を与えねばなりませんぞ!」
と申し上げた。
さすがは近侍の者、ハーンが怒って罰を加えてもハーンが怒りっぽいのではなくてこいつが二回もミスするからですよねー、とうまいこと言ったのである。
ところが、ハーンはそれを聴くと、ぎろりとその近侍の者を睨んだ。そして、
釈猟者不之問、移怒侍臣、且杖之。
猟者を釈(ゆる)してこれを問わず、怒りを侍臣に移して、かつこれを杖す。
鷹狩担当の方はお赦しになり、代わりに近侍の者の方に対して激しく怒り、人をして彼を杖で打たしめたのであった。
うひゃあ。
うまいこと言ったのになあ。何故こんなことに・・・。
・・・・・・・さて、その日の執務が終わって殿中から引き揚げてきた諸大臣たちは、門前で翰林侍講(事務顧問官)の竇黙、字・子声(後に「文正」と諡名さる)に対して揖礼(手を組んで胸元より挙げ、額をそこまで下げて行う敬礼)を行って祝賀の意を表したのであった。
「なぜわしを祝うてくださりますのかな?」
と竇黙は大臣らに訊ねた。
「おお、顧問官どのは御記憶ではございませんか?」
「いやいやお気づきでございましょうに」
と大臣らが言うには、これより以前にハーンがあることで自分に反対した臣下を叱りつけたとき、竇黙が
君曰可臣亦以為可、君曰否臣亦以為否、莫敢少異、非嘉政也。
君の「可」と曰えば臣また以て「可」と為し、君の「否」と曰えば臣また以て「否」と為し、あえて少異なきは、嘉政にあらざるなり。
君主が「こうだ」と言えば臣下もまた「こうです」と言い、君主が「ダメだ」と言えば臣下もまた「ダメです」と言って、君臣の間に意見の違いが無い、というのは決して善き政治ではございませぬ。
と諫言したことがあった。
そのときは、ハーンはいつものとおり無表情に聞いていただけであったが、
「陛下はやはりあの言葉が心にお残りであったのじゃ」
「そこで、自分の怒りをさらに増長させようとしたあの近侍の者の態度を、君が「可」というときに「可」、「否」というときに「否」という態度だと認識されたのじゃ」
と大臣たちは言うのである。
そして、
非公誠結主知、安得感寤至此。
公の誠と主の知と結ぶにあらざれば、いずくんぞ感寤のここに至るを得んや。
「竇黙どのの誠実さと、陛下の察知する能力と、この二つが結合するのでなければ、どうしてこのことに陛下がよくお気づきになれたであろうか」
「聖人の君主が賢者の顧問官とともに政治を行うのじゃ。まったくめでたいことではござらぬか」
と祝意を表したのだ、ということだったのである。
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元・蘇天爵「元朝名臣事略」巻八より。
まったくです。めでたい。わたくしども、君主にも賢者にも近侍にも大臣にもなることは無いような気がいたしておりますが、鷹を逃がしてしまった担当者の立場になることが一番多いような気がするので、ぜひよろしくお願いします。
さて―――今日も歯を食いしばっての更新・・・。もうそろそろ力尽きるか。やはりこの勉励斎めもダメに・・・