平成25年8月13日(火)  目次へ  前回に戻る

 

「肝冷斎のおぢたん、何かおもちろいお話ちてー」

「おお、よしよし、それではおもしろくてタメになるのをひとつ、いたしましょうぞ」

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六朝の晋の時代のことじゃ。

李増という武士が谷川のほとりを歩いていたところ、

見二蛟浮於水上、発矢射之。

二蛟の水上に浮かぶを見、矢を発してこれを射る。

二匹の水龍が水の上に浮かんでいるのを見て、矢をつがえ、「ひょう」と発してこれを射た。

ぶちゅ。

一蛟中焉。

一蛟に中せり。

確かに一匹の水龍に命中した。

矢の当たった龍は苦しげに水中に没し、もう一匹の龍もその後を追うように潜って行った。

そのまま、李増は町に帰った。

その後、用事があって市場に行ったところ、道端に

有女子素服銜涙、持所射矢。

女子有り、素服して涙を銜(ふく)み、射るところの矢を持す。

白い喪服を着て涙ぐんだ女が立っていた。女は手に矢を持って、無言のままそれを衆に示している。

よくよく見ればその矢は、李増の矢であった。

李増は不思議に思って、

「おまえさん、その矢をどこで手に入れたのだ?」

と訊ねた。

女は、低い、くぐもるような声で、

「この矢に見覚えがあるのか?」

と逆に訊ねる。

「それはわしの矢だが・・・」

すると、女、突然、目を飛び出さんばかりに見開き、口を大きくあけて、赤い舌を出して言う、

何用問焉、為暴若是。

何ぞ問うを用いん、暴を為すことをかくの如きに。

「これ以上問答する必要はない。あんたはひどいことをしたじゃないか」

そして、手にした矢に、霧のような唾を吐きかけるや、

便以相還、授矢而滅。

すなわち以て相還し、矢を授けて滅す。

突然、矢を返して李増の手に持たせると、かき消すようにいなくなってしまった。

「な、なんなのだ?」

李増、おそろしくなって駆け出したが、

未達家、暴死於路。

いまだ家に達せざるに、路に暴死せり。

家に着く前に、路上で倒れ、そのまま死んでしまった。

みなさんも道端で突然ひとさまからモノをもらった時は気をつけましょうね・・・。

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南朝宋・劉敬叔「異苑」巻三より。

「ねえねえ、おぢたん、このお話ほんとに役に立つの?」

「ちょっと違うような気がするよう」

とコドモたちは納得いかないようである。

「うるさ・・・」

と怒鳴りかけましたが、ぐっと我慢。確かに何の教訓にもなっていないような気がします。今日はむかしの仲間と飲み会だったので、少しだけ心にゆとりが出来ていたこともあって、

「ほうほう、そうですかのう。おまえさんたちにもいつかわかるときが来ますぞ」

ととぼけて誤魔化したのであった。

ついでに今日その席で、某岡本全勝さんから「蔵書の苦しみ」(岡崎武志・2013光文社新書)という本を貸してもらってきました。たいへん身につまされることが書いてあるらしい。興味のある人はここに紹介されているので、読んでみてください。

 

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